一番大切な事・6:好き、キス、好き、きらい



僕は繋いだ手を振りほどき、彼女を抱きしめた。


ばか ばかばかばかばか
ごめん ごめんごめんごめんごめん


「ばか。そんなに泣けてきたなら言えば良かったんだよ」
「ごめんね」


僕はもっと手に力を入れ、力強く抱きしめた。
「本当に辛かったんだよ、僕」
「うん、本当にごめんね」
彼女も僕を抱きしめ返した。






「でも、いいよ、もう。なんか号泣したって聞いたらどうでも良くなっちゃった」
「うん。あの時は本当に泣いた。ごめんね」


そして僕と彼女は長いキスをした。





「あー、何だか色々と安心したら力が抜けちゃった」
そう言って彼女は横になって僕の膝に頭を載せた。
僕は彼女の背中に手を置き、髪を触っていた。


「なんだか、あまあまだぁ」
彼女はニヤニヤしながらそう言って甘え、目を瞑った。


「そうなの? 膝枕、彼としたりしないの?」
僕はちょっと驚いてそう聞いた。


「うん。ぜんぜん。なんかドライな感じだよ」
「へぇ〜 そうなんだ。なんか意外」
「こんなに甘えられちゃうの、ぽんだけだもん」
「あはは。膝枕くらい、いくらでもやるよ」
僕は笑いながらそう言った。




「ねぇ、こっち来て」
暫く膝枕をしていると、彼女はそう言って僕も横にさせ、抱きしめた。


こんな感じでいい?
うん くっついちゃった(笑
あはは。くっついちゃったね(笑


そう言ってまたキスをした。
キスをしながらお互い身体に手を這わせ、その体温を感じとっていた。


「いまね、したい気もするんだけど、止めといた方が良い気がするの」*1
彼女は僕の胸に顔を埋めながらそう言った。


「なんで?」
「何かね、しちゃったとして、後で何かを後悔する気がするの。
 そうなるのはイヤだから、今日はしないで、次にしたいの」
「そっかそっか。僕は全然構わないよ」
「ごめんね」
「んーん、ちっとも。
 むしろ、何だろ。僕も今はこうやっていたい。
 しちゃうより、ぎゅって抱きしめていたい感じ。
 だから、する時間が勿体ない感じがする」
そう言って僕が笑うと彼女も笑って「アタシも同じ」と言った。


その時、もちろん僕も彼女もしたかったハズだけど、
単純に身体を合わせるよりも、ずっとずっと抱きしめていたかった。


僕たちはキスをしたり、お互いの身体を触ったりしながらニヤニヤしていた。
「なんかさー、やっぱり相性ってあるよね」
暫くして彼女はしみじみとそう言った。


「そりゃあるでしょ」僕は笑った。


「一人二人しか知らなければ、あぁこんなもんか って思えるけど
 そうじゃなければ相性が大事ってすごく良く分かる」
「僕もそれは思う」
「アタシね、ぜーんぶさらけ出せるのはぽんだけだよ」彼女は笑いながら言った。
「僕だってそうだよ。この相性は捨てられないよ、実際のトコ」僕も笑った。


「つかさ、僕、いまほとんど何も触ってないよ? それなのに今それを思うか」
「あははははは。うん、これだけでもそう思う」
そう言った彼女の身体は、少しずつ熱くなってきた。


僕は彼女のおでこにキスをして、頬にキスをして、唇にキスをしてをして、
耳にキスをして、首筋にキスをした。
彼女はその度に身体を震わせて僕を抱きしめた。




「あんまり強くキスしたら、キスマーク付いちゃうかな?」
僕はそう言って彼女を見た。


「大丈夫だよ、付いても」
「そうなの?」
「うん。前の方だと職場でバレちゃうかもしれないけど(笑」
「そうだけど、首とか、彼にわかっちゃうんじゃない?(笑」
「うん、あのね、大丈夫」そう言って彼女はまた笑った。
「なんだそりゃ。それすら気付かれないのか(笑
 まぁいいや、でもまぁ、なるべく目立たないトコロに付けるね」
「うん。お願い。付けて。付けて欲しい」


僕は彼女の後髪を持ち上げ、うなじに強くキスをした。


「アタシも付けていい?」
そう言って彼女は僕の服をたくし上げ、胸板にキスをした。
「そこじゃなくても、どこでも大丈夫だよ」僕は笑いながら彼女の好きにさせていた。





「話しは戻るけどさ、この先、どんな感じが良いんだろうね」
暫くして、二人ともベッドから起きあがり向かい合って話しをしていた。


「ね、どうしよう」
「どうしようね」


「さっきも言ったけど、僕は何がどうであろうと、F香が好き。それは変わらないよ」
「うん。私もぽんが好き」
「でも? でしょ(笑」
「うん(笑 でも、だね」


そう、結局のところ、その時点で彼女は彼と別れる気は無かった。
それは僕にも分かっていた。


「まぁ、それでもいいよ。
 取り戻したいとかじゃない とは言ったけど、何というか、それは今のこの時点での話しでさ。
 そのうち時間が経ったら取り戻しにかかるとは思うけど、今はまだその時じゃないと思うんだ。
 近いうちにヨメさんと離婚についての話をするけど、そういった事が済んでからでさ」
「うん。ぽんの言ってる事はわかる」


「つまりさ、僕は今の時点では「好き」って気持ちを伝える事しか出来ないし、
 それだけでも充分なのかな、って思うの」
「うん。私もぽんが好きだけど、今の時点では他の事は何も言えない」


「ま、取り敢えずはお互いがお互いを好きってだけでも良いのかもね」
「だね」


「ねぇ、F香」
僕は彼女の手を取っておでことおでこをくっつけた。


「なぁに?」
彼女は僕の手をギュっと握り答えた。


「好き」
「私も好き」


「あーあー」
彼女は「好き」と言った後にそう言った。


「どうしたの?」僕は尋ねた。


「ホントはね、会う直前まで終わりにする気まんまんだったんだよ?
 でもさ、手を繋ぐかどうか聞いたでしょ?
 その時「あぁ、私は手を繋ぎたいんだ」って思っちゃったの」


「うん」


「終わりにするつもりだったんだけどなー」
「無理だった?」
僕は笑いながらそう言った。


「うん、無理だった」そう言って彼女も笑った。


「ね、あのさ。このパターンって、二度目じゃない?」
「どういう事?」


「もう終わりにするって思ってても、やっぱり顔を見たら好きって分かっちゃうのって」
「うん、確かに二度目だ」彼女は頷いた。
「もうさ、終わりにするとか、諦めた方が良いのかもよ?
 結局、何だかんだと、お互い好きって気持ちは消えないんだもん」
「うん。そうだよね・・・・」


「ねぇ、ぽん」
突然彼女は真剣な顔つきになった。


「ん? なぁに?」僕は聞き返した。


「きらい。だいっきらい!!」
彼女はそう言って僕の目を真っ直ぐ見た。


「嫌いなの?」僕は尋ねた。
「うん。だいきらい」
「本当に?」
「・・・・・・好き」


「あはははは」
「もう、笑わないでよ。頑張って言ってみたのになぁ」


「だからさ、もう諦めなよ、それ(笑」
そう言って僕は彼女を抱きしめた。


「諦める」
そう言って彼女も笑った。






「ねぇ、ぽんはさ、どのくらい真剣に離婚を考えてるの?」
ちょっとしてから彼女は僕にそう尋ねた。

*1:セックスのこと