一番大切な事・5:彼女のウソ



「ねぇ、彼との事とか、ぽんに報告した方が良い?」
ふと思い出したように彼女は言った。


正直、僕は悩んだ。
聞いておきたい部分もあるし、聞いたら聞いたでツラい部分もある。
「んー、どうだろう。やっぱあんまり聞きたくないかな。
 出来れば、上手く誤魔化すかウソをついといてほしい」
僕はそう答えた。


「うん、わかった。じゃぁ上手くウソつくね」
そう言って彼女は笑った。






「でもさ、F香のウソ、あんまり上手くないからなぁ。バレバレだった事も結構あるよ?(笑」
「うん・・・ たぶんバレてるだろうな、ってのは幾つかある(笑」
「でしょ? まぁ、さ、僕にとってはF香が言った事が本当の事だから、別に良いんだけど」
「うん。ぽんはさ、知ってて気付かないフリしてくれてたのも知ってる」
「ま、もう今更なにもウソつく必要ないし、何でも言っていいよ? 彼との事以外は(笑」
「うん、そうするね」
そう言って彼女は頷いた。


「あ、そうだ。さっきね、F香のウソ、一つバレたよ」
僕は笑いながら言った。


「えー、なになになに?」
「何だと思う?」
「えー、心当たりが有りすぎて、どれだか分かんない(笑」
「ちょ、どんだけウソをついてきたんだよ(笑」
「うー」
「ま、いいよ、それでも」
「なんでそんなにMなのよ(笑」
「別にMなわけじゃないよ。さっきも言ったけど、
 ウソつかれようがなんだろうが、好きだからどうでもいいの」
「それがMって言うんじゃない?(笑」
「あははは。そかそか。で、何のウソがバレたと思う?」
「えー、わかんない」


仕方ないなぁ そう言って掃除した時に見つけたチケット手に取った。
「ほら、これ。こんな証拠、残してちゃダメじゃん」
僕は笑いながら遊園地の男と写った顔写真付きチケットを彼女に渡した。


日付は彼女が「女友達と3泊旅行した」日。*1
つまり、彼女は僕にウソをついて(おそらく)その彼と旅行に行っていたのだ。


「あー、やっぱりバレちゃった・・・」
彼女は落胆した様子でそう答えた。





僕もその旅行の事を100%信じていたわけではなかった。
彼女が旅行の写真を日記にアップした時、向かい側の席にどうみても男性な姿が写っていた。
その頃はもう彼女が僕と彼との間で悩んでいた時期だったから、僕は死にそうな気分だった。


でも、まさかまだ僕と付き合ってる最中に泊まり掛け旅行に行ったりしないだろうと思ったし、
そもそも旅行の計画を知ったのは8月の上旬。その時はまだ彼女は悩んでいなかった。


でも、これは誰だ?
僕は混乱した。


彼女からは旅行の初日(遊園地の日)には普通にメールが届いていたけど
二日目からはメールの頻度がガクっと落ちた。


僕は悩みに悩んだ末、一つの推論に辿り着いた。
いや、その推論でしか自分を納得させる事が出来なかった。


彼女は友達との付き合いをとても大事にする。それが男友達でも。
そしてそういった部分で束縛されるのを嫌がる。
僕はそういった彼女の性格を知っていたし、理解もしている。
だけど、やっぱり男友達と泊まり掛けとなると良い気分はしない。




彼女としては
「男友達と旅行に行く」と言ったらぽんをイヤなキモチにさせてしまう
でも、友達付き合いも大事だ
正直に言って「行くな」と言われて束縛されるのも困る
じゃぁウソをついて旅行に行くか
という心境になった。と仮定した。
そう思わないと僕はダメになりそうだったからだ。


そして、メールの頻度が落ちた事も考えた。
彼女は「ただの男友達」として旅行に行っていても、相手はそう思わないかもしれない。
もし夜に「何か」あって、それが彼女の意にそぐわない場合。
もしそうだったとしたら、メールの頻度が落ちる理由にはなる。


そして僕はさらに考えた。
彼女に質すべきか、否か。
でも、どう聞けば良いのか、どう反応すれば良いのか僕には分からなかった。




彼女が旅行から帰ってきた数日後、僕は彼女の部屋に居た。


「ねぇ、旅行ってホントは誰と行ったの?」
僕は唐突に質問した。


「え? ○○ちゃんとだよ?」
「ホントに? ホントは男と行ったんじゃないの?」
「えー、なんで? なんでそう思ったの?」
「写真。日記の写真に、男が一緒に写ってるよ(笑」
「えー、どれ? どの写真?」
そう言って彼女はデジカメを取りだした。


「ほら、これ」
僕は気になっていた写真を指さした。


○○ちゃんは他の写真でも見た事があったけど、その写真に写っている姿は別人だった。
体型もデカいし、手もゴツい。もちろんネイルだってしていない。


「ああ、これかー。○○ちゃんのオフモードだからさぁ」
そう言って彼女は笑った。


「ホントにそう?」
「うん。そうだよ。いやぁ良いネタが出来たよ(笑」


「そっかー、疑ってゴメン。ほんとうにごめん」
僕は真剣に謝った。


どれだけ男みたいな姿が映っていようと、僕には彼女の言う事が真実だった。
だから真剣に謝った。


「もう、そんなに謝らないでよ」
「だって、疑っっちゃったんだもん。本当にゴメンね」
「いいよ、そんなの。でももし男とだったらどうした?」


「んー、多分「ウソをつかせてゴメン」って思ったと思う」
「え? どういう事? なんでぽんがゴメンって思うの?」
彼女の疑問は当然だった。
なんでウソをつかれた僕が謝らなくちゃならないんだ。




でも、僕はなんでゴメンと思ったのかを彼女に伝えた。


「男友達と旅行に行く」と僕が知ったらイヤなキモチにさせてしまう
でも、友達付き合いも大事だ
正直に言って「行くな」と言われて束縛されるのも困る
じゃぁウソをついて旅行に行くか という心境になった。


そんなウソをつかせるような事をさせちゃったのは、僕がきっとイヤがるから。
だからウソをつかせてゴメン なんだよ。
僕がF香の友達関係をまったく気にしなければ彼女はウソをつく必要も無かった。


僕はそんな内容の事を彼女に言った。
そして、メールの頻度が落ちた時の事も彼女に言った。


「メールの頻度が落ちた時があったでしょ?
 もし、あの時「男友達と何かあったら」って考えたの。
 もし、何かあって、それで落ち込んでいたとするでしょ?
 でも、F香はウソをついて旅行に行ったから、僕にはそれを言えないじゃん?
 だからホントは誰と行ったか聞こうと思ったの。
 だって、F香からは言い出せない事だし、僕の方から言えば実は・・・って言えるし」


「そっかー、ごめんね、悩ませちゃって」
「んーん、僕の方こそ疑ってごめん」


「でもさ、意にそぐわなくなくて、私の意志だったらどうした?」
「ん、死んだね、それは。つか、F香はそんな事しないもん(笑」
僕はそう言って笑った。





「あー、やっぱりバレちゃった・・・」
彼女は落胆した様子でそう答えた。


やれやれ。
やっぱりウソだったのか。
僕はそう思ったけれど、不思議と怒りは怒らなかった。
むしろ意味もなく笑いだしそうだった。


「まったく、どう見たって○○ちゃんじゃないもん、あの写真」
「ごめんね・・・」
「ん、いいよ、もう」
「でも、すっごくツラかったんだよ、悩んだ時」
「うん・・・ごめん」




「あの時ね、私、号泣しちゃったの」
彼女は僕の手を取って話し出した。


「あの時?」
「うん。遊園地行った、その日の夜かな」
「うん」
「なんかね、急に泣けてきたの。
 なんでアタシはここに居るんだろう。
 なんでぽんが横に居ないんだろう って。
 そう思ったら泣けてきて、お風呂で号泣しちゃった」
そう言って彼女は笑った。
そうか、だからメールの頻度が減ったのか。
僕の想像は半分当たっていたのだ。




僕は繋いだ手を振りほどき、彼女を抱きしめた。


ばか ばかばかばかばか
ごめん ごめんごめんごめんごめん


「ばか。そんなに泣けてきたなら言えば良かったんだよ」
「ごめんね」


僕はもっと手に力を入れ、力強く抱きしめた。
「本当に辛かったんだよ、僕」
「うん、本当にごめんね」
彼女も僕を抱きしめ返した。

*1:女友達は前日に彼女が泊まった○○ちゃん http://d.hatena.ne.jp/pon_cat/20101114