3・1995年春





「ぽんが○○(ある女性タレント)を好きなのは、
 U子に似てるから?」






そう言ったきり、彼女はふてくされてしまった。


コーヒーショップの彼女が、僕の持っていた高校時代の写真を勝手に見てから、
数ヶ月した頃のセリフだ。






「ん、別に関係無いよ、U子は」


「うそ。絶対似てるからだよ。
 ホントはまだ引きずってるんじゃない?」


「引きずってなんかないって。何年経ってると思ってるんだよ」






その時僕は21歳で、コーヒーショップの彼女は19歳だった。
付き合いだして、半年を過ぎた頃だった。




U子に振られてからの3年間、僕は数人の子と付き合い、同棲もしていた。
女の子を好きになり、付き合い、別れる。
その繰り返しだった。




実際、僕は引きずっていたのだ、U子の事を。




同棲していた時の彼女にも言われた。
「ぽんくんはさ、まだ好きなんだよ、U子ちゃんの事が」




大魔王先輩にも
「ぽんさぁ、いい加減引きずるの、やめたら?」と。


++


「別に関係ないよ」


そう伝えた1ヶ月後の5月のある日。






会社から帰った僕は、スーツを私服に着替え、
車に飛び乗った。
帰りがけに買った花束を助手席に載せ、僕はU子の家に向かった。




20分後、僕はU子の家の灯りが見える場所に車を停め、
父親から借りた、アナログの携帯を使い電話をかけた。




プルルルル






プルルルルルルル






「はい、○○です」


U子の母親だ。


「ぽんと申します。ご無沙汰しています。
 ええ、はい。U子さん、いますか?」






これは賭だった。
いや、賭にもならないほど、勝ち目の無い勝負だった。
単に自分自身の中でハッキリさせたかっただけだったのかもしれない。
もし出掛けていたら、勝負にもならないのだ。




「もしもし」


少し怪訝そうなU子の声が聞こえてきた。
家に居た。
僕にはそれだけでも嬉しかった。




「久しぶり。元気だった?」
「うん。先輩は?」
「元気だったよ。あのさ、今、少し出てこれる?」
「え? 今、何処に居るの?」
「すぐ近く。父親に携帯借りてきた。時間、取らせないからさ」
「・・・・行く」






数分でU子は出てきてくれた。








「はい」僕は花束を手渡した。




「ハタチの誕生日、おめでとう」








U子は驚きと嬉しさと
表現の出来ない感情を織り交ぜた表情で花束を受け取った。




その日はU子の20歳の誕生日だったのだ。
もしデートにでも出掛けていれば、全く意味のない事だった。


もっとも、花束を手渡せたからと言って
意味のある事になるとは限らないのだけど。