4・1995年春・続き





「あ、、、ありがとう」
そう言ってU子は花束を受け取ってくれた。
「覚えててくれたんだ、誕生日」


U子は花の香りを楽しみながら、そうつぶやいた。
「ん、まぁね。いや、手帳を見てたらさ、思い出したんだよね」




もちろんウソだ。ずっと覚えていた。
U子の誕生日を迎える度に、思い出していたのだ。




しかし、それを言えるはずもなく
「せっかくだし、と思ってさ。ま、家に居てくれてラッキーだったよ」
としか伝える事が出来なかった。


「今日は仕事が早く終わったしね」
「そっか、もう働いてるんだっけ」
「うん。進学しなかったし」




社会人でハタチ。
僕は巧く理解できなかった。僕の中でU子は17歳だった。
ずっと高校生で、ずっと僕の後輩だった。
しかし、その幻想が引きずっている根本なのだ。




現実はハタチで、働いていて、僕だけの後輩でもなんでもなかった。
その事実を受け入れなくてはいけなかった。




「ダメだよ、折角の誕生日なのに、家なんかにいちゃ。デートしないの?デート」
顔では笑って、昔の彼女の「今」を心配する元彼を演じていた。
でも心の中では「彼氏いないし」という答えを期待していた。




もし彼が居なかったら、どうだと言うのだ?
今更ヨリを戻そうとでも言うのか?
ヨリが戻ってどうなる?
同じ事の繰り返しじゃないのか?
それに、今の彼女をどうすんだ?(笑




そんな事がぐるぐると僕の頭を回っていた。
U子は明確な答えは言わなかったが、恐らく彼氏くらい居るのだろう。
そもそも、僕が振られて別れたのだ。
居たっておかしくない。


僕だって別れた後に、何人も付き合ってきたのだ。






家に帰り、布団に突っ伏した僕は、30分の会話を反芻していた。
U子のしぐさ、笑顔、話し方。
何年たっても、そのクセや雰囲気は変わっていなかった。




会いに行く前、一つ自分の中で決め事をしていた。
「会うことが出来て、どんな結果であろうとも
 その後、僕から連絡するのは止めよう」と。


もし、何かU子に変化があれば、向こうから連絡してくるだろう。
なければ、それで終わりにしよう。




いや、
U子の中では、とっくの昔に終わりにしていた事なのだ。
それを納得し、受け入れる事にしよう。
僕はそう心に決め、また毎日を過ごす事にした。


そうして、4年間に渡るU子への想いは消え去っていった。




++


ーーー2002年


「そう言えばさ、U子ちゃん、可愛かったよね〜」
「ぶはっっ なんだよ唐突に」


その日、僕はF美とゴハンを食べていた。
会うと、必ずと言って良い程、高校時代の話題が出てくる。
それが顧問の話だったり、F美の彼氏の事だったり、U子の話題だったり。




「なんか、ふと思い出してさぁ。
 どのくらい付き合ってたんだっけ?」
「んと、1年ちょいかな」
「引きずってたよね〜(笑」
F美は楽しそうにからかいだした。




「う、、、まぁね(笑」
「らしくないよねー、そういうの」
らしくない?
確かに今の僕から考えれば、らしくない。




「ははは。ま、若かったし」
「今は?」
「今? ちっとも(笑)。良い想い出だよ。
 あれはあれで楽しかったし、良い教訓にもなったよ」




「ふ〜ん。結局、いつぐらいから付き合ってたの?」
F美がそこまで話を掘り下げて来たのは初めてだった。
僕も特に詳しくは話した事がなかった。




「あれ? 知らなかったっけ?」
「うん。聞いてない。だってさ、ずーっと仲良かったじゃない?
 だから、早いウチから付き合い出したと思ってたんだけど」




「1学期の間は付き合ってなかったよ。
 付き合い出したのはねぇ」




「付き合いだしたのは?」




回りが煩いせいもあり、F美は身を乗り出してきた。