5・駅までの道のり





ーーー2002年


「1学期の間は付き合ってなかったよ。
 付き合い出したのはねぇ」


「付き合いだしたのは?」


回りが煩いせいもあり、F美は身を乗り出してきた。


「え〜、ホントに言わなかったっけ? 前」
「さーて、どうだったかなぁ。ふふふ」


「あ、、、オマエ、わざと知らないフリしてるだろ」
「さーねぇ、、。で? で?
 どうやって付き合いだしたの?」
「ったく・・・」


僕は諦めて
その頃の事を思い出しながら話し出した。


++


ーーー1990年春


部活も本格的に始まり、僕は忙しい毎日を送っていた。
部長も委員長も後輩に移ったのだが、それでもやらなくてはならない事が多かった。




大魔王先輩を始めとするOBやOGは、進学したり就職したりしていたが、
ヒマなのかよく学校に遊びに来ていた。
僕も先輩達は気に入っていたので、それはそれで楽しい状況ではあった。




僕がいた部活は、顧問の方針と僕の性格のせいで、
「活動をしたい人は来ればいい」という環境だった。
僕自身、大体顧問と雑談をして終えているのだから、他の部員に文句は言えない。




U子は委員会の無い日は、毎日ではないにせよ、部活に顔を出していた。
真面目なのかどうなのかは分からないが、結構最後まで残っており、
僕とも喋る事が多かった。






「さてと、終わった終わった」
「お、そんな時間か」


その日、僕は顧問とコーヒーを飲みながら予算組みの話をしていた。
いかに部費で「楽しいモノを買えるか」の悪巧みをしていたワケだ。
「じゃぁ先生、僕は委員会に寄ってから帰ります」
「おう、じゃぁな」




顧問の部屋を出て、部室に戻ると、U子が部活の片付けをしていた。
「おつかれさん。まだ残ってたんだ」
「あ、、、はい。少しやりたい事が残ってたので」
「そっか。もう部屋閉めるよ」
「私も出れますから大丈夫です」




僕とU子は部屋を出て、廊下を歩いていた。


「委員会の部屋を閉めてから帰るけど、駅まで一緒に行こうか」
僕はU子にそう言ってみた。


これは別にU子を誘った訳ではなく、ただ、隣にいた後輩を誘っただけだった。
部活が終わって、駅まで一緒に帰る。それだけの普通の事だった。


僕は委員会の部屋を閉め、校門で待っているU子の所へ向かった。




「お待たせ〜。さ、帰ろ、帰ろ」
そう言って僕は歩き出した。


駅までの道程、僕とU子は色々な事を話した。
U子の中学の時の事や、僕がなぜ制服を着てこないか、とか、
あまり他愛も無いことばかりであるが。




途中、何人かの後輩に声を掛けられた。
「せんぱ〜い、またねー」とかそんな感じだ。
「んー、おつかれー。またな」




そのやり取りを見ていたU子が
「ぽん先輩って、一体幾つの部活に顔出してるんですか?」と聞いてきた。


「え?なんで?」
「だって先輩とか後輩とか、むちゃくちゃ知り合いが多いじゃないですか(笑」
「言われてみればそうかも。ははは。しかしU子ちゃんは背が低いなぁ」
そう言ってU子の頭に手を置いてみた。
「関係ないじゃないですか、それはっ」
U子は笑いながら僕の手をどけて背を測らせないようにした。




「あはは。冗談だってば。そうだなぁ7つくらいの部活には知り合いがいるかな」
「うわ、多いですね」
「まぁ、委員会もあるから、どうしても知り合いは増えちゃうよ」
「へー」


++


ーーー2002年〜


「ふーん。なるほどねー」
そう言ってF美は僕の手を自分の頭に乗せてみた。


「それが最初かなぁ、一緒に帰ったのって」
「ちょっと待ってよ。最初に帰って、それ?」




F美は少し驚いたようだった。
「それって?」
「だから、これこれ」
F美は自分の頭にある僕の手を指さした。


「これって、手? ダメ?」
「ダメって言うか、U子ちゃんでしょ? ビックリしてたんじゃない?」
「んー、どうだったかなぁ」
「もー。ダメでしょ、そう気安くしちゃ」
「でもさー、普段からそうだったもん、僕の場合。
 みんなそんな感じの友達付き合いだったしさぁ」




確かに考えてみれば気安かったのかもしれない。
しかし、僕にとってはそれが普通だったのだ。
元々OB・OG達ともそういう感じの付き合いで、男女関係なく仲が良かったのだ。




「ね、そういうので勘違いされた事無かったっけ?後輩に」
F美は何かを思い出そうとしていた。


「あ、思い出した。チョコだよ、チョコ事件」
「げ、、、それは禁句でしょ(笑」


確かにそのチョコ事件は、僕の身から出た錆だったのかもしれない。