6・チョコ事件





ーーー1989年


チョコ事件は、僕が高校2年生の頃に起きた。
1年生の初夏に、中学の頃から付き合っていた彼女に振られ、
僕は「彼女は当分いらない」という心境だった頃だった。
その「彼女必要なし」な心境があったからこそ、
先輩や後輩とも異性ではなく。友人として付き合ってこれたのだと思う。




僕は2年生になり、部長と委員長を引き受ける事になり、毎日忙しい日々を送っていた。
それらの関係で、先輩後輩が格段に増え、比例して女の子の知り合いも増えていった。


特別仲が良い子、というのは僕自身の中ではおらず、みんなと平均的に友達付き合いをしていた。
例の「大迷惑CD」の後輩もその一人だった。




僕はその頃から部活ではコーヒーを飲む生活を送っていたのだが、
チョコ事件はそこで起きた。


後輩の一人に、少し気に入っている子がいた。
元々仲が良かったせいもあり、
僕の幼なじみとその後輩と友達の4人で遊びに行った事もあった。




冬になり、年が明け、2月になった。
チョコが好きな僕は、先輩後輩構わず「チョコくれ〜チョコくれ〜」と言い回り、
少しずつ確約を取り付けていった。




その一人が、少し気に入った後輩の友達だった。
一緒に遊びに行った子だ。




「ね、チョコくれ、チョコ。義理で良いからサ」


「え〜、どうしようかなー。
 本命あげましょっか? あはは」


僕は「あ、こいつからかってるんだな」と思い、




「いいよ、義理で。くれくれ〜」と答えた。すると




「本命あげますよ〜」
と言うので、しつこくからかってるな、と思ったのだ。




僕にとっては、義理とか本命とかは関係なく、チョコが食べれるかどうかが重要で、
相手の真意など、わかりもしなかった。


それ以前に僕が好意を持たれている事自体が、想像域を超えていたのだ。


「義理で良いって。悪いから(笑」




僕はそう答えたものの、
その後、その子からの笑顔は僕に向けられる事は無かった。




ーーー2002年


「しっかし、可哀想な事するよね、ぽん君も」
F美は笑いながら僕にそう言った。


「だってさあ、カケラも気付かなかったんだもん。
 そんな素振りも無かったし」
「でもわかるもんじゃない?」
「分からない、って。だってさ、ほら覚えてる?○○の事(大迷惑CD娘)
 あれだって回りに言われるまで気付かなかったんだよ」
「あはは。そうだったよね。あの子、ぽん君と喋る時、声も表情も違ったんだよね」
「それそれ。違うって言われても、僕は僕と接してる時の声しか知らないんだもん
 気付く訳がないよ(笑」


「まぁねぇ。そうだけどさ。ぽん君の接し方は、勘違いされやすいんだよ、きっと」
「らしいねぇ」
「他人事じゃないでしょ?(笑
 16、7の頃なんて、あっと言う間にコロっといっちゃうんだから、優しくされると」
「別に贔屓してたつもりは無いんだけどなー」
「無くても、受け取る方は自分にだけ、って思っちゃうんだよ。
 それが、恋ってもんでしょぅ(笑」






確かにそうなのかも知れない。
だからこそ「恋は盲目」という言葉があり、
僕は「恋愛=勘違いと思い込み」と思うのだ。




「でもさ、女の子と仲が良い割には鈍感だよね」
「そうなんだよー。すんげぇ鈍感。ちっとも気付かないんだよね」
「なんでだろう」


「多分ね、自惚れたくないからだと思うんだよね」
「自惚れ?」
「好かれている、って変に自覚したくないんだよね。なんかアグラかきそうだし。
 追う方が性に合ってるってのもあるかな」
「ふーん」
「U子ちゃんの時も気付かなかったの?気持ちに」
「う、、結局そこに話を戻すか」