8・合宿と電話
ーーー1990年梅雨
期末試験も近づき、部活を休む人が増えてきた。
僕の居た部活はそもそも自由参加なので、休もうが出ようが本人の勝手だった。
しかし僕は夏休みの合宿の申請や、委員会があったので、学校に残っていた。
普通、3年になれば進学の為に本腰を入れる必要があるのだが、
1年の時には専門学校への進学を決めていた事もあり、受験勉強の必要がなかったからだ。
面接と学校からの推薦と論文だけなので、平均的な成績だった僕には、まず安心だった。
「じゃぁ3年はぽんを含めて4人参加か?」
「ですね。あとは2年が5人と、1年が4人です」
その日、僕は顧問と合宿の打ち合わせをしていた。
文化系の部活なので、大した事をする訳ではなかった。
ただ「合宿に行こう」というだけで、始めた事だった。
今回が創部2回目なのだが、前年に合宿申請を行ったときは、職員室が揺れたらしい。
「○○部が合宿? なんでまた。初めてじゃないか?
誰だ部長は。 あぁ、ぽんか。相変わらずワケわからんヤツだ」
そんな感じだった。
「じゃぁ後は○○部と予定を合わせて、決まり次第パンフレットを作ります」
「ん、そうしてくれ」
僕の居た部には女性の顧問が居なく、単体では合宿を行う事が出来なかった。
女子部員が合宿に行く場合は、女性の顧問の同行が必須だった。
だから顧問同士仲の良い部との、合同合宿を行っていたのだ。
「こんちは、ぽんです」
「あ、ぽん先輩だ。こんにちは。どうしたんですか?」
僕は一緒に合宿に行く部の部室を訪れていた。
「ん、合宿の打ち合わせ。先生いる?」
「いますよ」
この子は1学年下の子で、彼女が1年の時から仲が良い。
彼氏や進学の相談を受けたりしていて仲が良かった。
もともと引っ込み思案な所がある子だったが、性格は明るく、部活も真面目に出ていた。
ちなみにこの子が
「引っ越すんですけど2人で住むには〜」などのメールを寄越した、
結婚する事を言わないけど気付いて欲しい娘に成長する。
先日、無事に入籍を済ませたらしい。
その報告も
「言ってませんでしたっけ? 苗字が○○になりましたヨ」
という内容だった(笑
そして2004年に離婚した
合宿の打ち合わせも終わり、試験が始まったある日
僕はU子に電話をかけた。
考えてみれば電話をかけるのは初めてだった。
それまで、
女の子に電話を掛ける時に緊張したことなど無かったにも係わらず、
僕は動悸が速くなるのを感じた。
ピポパ・・・
「はい、○○です」
電話には母親が出た。
「○○部のぽんと申します。夜分にすいません。U子さんをお願いしたいのですが」
「・・・はい、お待ち下さい」
母親の一瞬の沈黙が少し気になったが、無事に取り次いでくれた。
「もしもし、ぽんです」
「せんぱいっ どうしたんですか?」
「ん、いや、勉強してるかな、って思ってさ」
僕は思わず本題に関係ない事を口走ってしまった。
勉強の事を話す為に電話した訳では無いのだ。
ーーー2002年
「へ〜、そうやって誘ったんだ」
「そう。・・・なんだよ、まじまじ見るなよ、恥ずかしい」
「あはは。ぽん君でも照れるんだ」
F美は楽しそうに笑った。
「でもさ、その時にはU子ちゃんの気持ちに気付いてたんでしょ?」
「それがさぁ、そうでも無いんだよ。電話した時だって、断られたらどうしよう、って
そればっか心配してたもん」
「何言ってんのよ。気付いてなかったのはぽん君だけだよ、U子ちゃんの気持ち」
「そうだったんだ。ははは」
「でね、電話してさ、最初は全然関係ない事ばっか喋ってたんだよ、合宿の話とかさ」
「うんうん。で?」
「しばらく雑談してさ、なんとか話の方向を持っていこうとしたんだよ」
僕は少しずつその時の状況をF美に話し出した。
++
街で見かけたまぬけ面(笑
かわいい・・・