9・そして初夏。映画へ





ーーー2002年


「しばらく雑談してさ、なんとか話の方向を持っていこうとしたんだよ」
僕は少しずつその時の状況をF美に話し出した。




ーーー1990年梅雨


「そういえばさ、こないだ映画の話したじゃない?」
僕は「あ、思い出した」といった雰囲気でU子に問いかけた。
バックトゥーザフューチャーの事ですか?」
「うん、そう。試験が終わったら観に行かない?」
「え?・・・・」




一瞬の沈黙




本当に一瞬だったんだろうけど、僕にはそれがひどく長い時間に感じた。
まるで試験の合否発表や、何かの判決を待つ時のように。




「あれ、ホントだったんですか?」
「もちろん。僕に社交辞令は通じないのだ。ははは」


「あはは。行きたいですね〜」
「どうする? 行かないなら、もう一生誘わないけど(笑」
「い、行きます、行きますっ!!」
「よし、決まり〜。じゃぁ試験が終わったら行こうね」
「はい!」




軽い雰囲気で誘ったつもりだったが、僕は緊張の極限にいた。
こんなにドキドキして誘ったのは中学の時以来だった。




ーーー1990年初夏




期末試験も無事に終わり
大半の同級生は受験地獄へと向かっていった。


僕は進路を専門学校と決めていたので
高校最後の夏休みをいかに過ごすか考えていた。


そんな一日、大魔王とその彼女とでお茶をしていた。


「ねぇぽん、U子ちゃんだっけ? デートしないの?」
大魔王の彼女はそういう話が大好きなのだ。




「しますよ、もちろん」


「なにー? 聞き捨てならないわね。なに隠してんのよ」
僕は別に隠していたワケではない。敢えて何も言わなかっただけだ。


「ちょっとー、何処でデートすんの?」
「そりゃぁ企業秘密ですよ」
「ちぇー、ケチ」


「コイツ、映画行くんだってさ」
それまで静観を保っていた大魔王が突如口を開いた。
さすが魔王。きちんとバラしてくれた。




「へ〜、映画なんだ。尾行して良い?」
「良いわけないでしょ(笑」




ところでこのヒトたちは予備校生である。
僕なんかと遊んでいて良いのだろうか?
 →翌年、無事合格したから良かったけど(笑






僕は腰に手を当てて立っていた。視線の先には2枚のシャツ。
20分前にU子との電話を終え、翌日の服を考えていた。


「明日は10時に○○で待ち合わせしようね」
そんな会話をしていた。


それまでは学校帰りに喫茶店に寄ったりはしていたが
休みの日に外できちんと会うのは初めてだった。


そして僕は柄にもなく洋服の事で悩んでいた。




考えてみれば、マジメに誘ったデートなんて数年ぶりなのだ。
それまでは何人かで遊びに行く事はあっても
改めて誰かを誘う事など無かった。


二人きりで会うにしても「茶、しよーよ」とか軽い感じだった。


結局、一番お気に入りのシャツを選び寝ることにした。


++


恐ろしく晴れ渡った空は、もう夏だった。


10分前に待ち合わせ場所に着いた僕は、一服しながらU子を待った。
U子は5分前にやってきた。


「おはよう」
「おはようございます♪」


初めて見るU子の私服姿は、とてもかわいかった。
白いブラウスとベージュのラフなベストに、ネイビーのフレア。
長めのストレートヘアは丁寧に櫛が通され、風に揺られていた。




僕は改めてこの時「あぁ、僕はこの子の事が本当に好きなんだな」と実感した。
それほどまでに心臓は高鳴り、U子の全てがかわいく思えた。




ーーー2002年


「・・・・そんな時代もあったんだねぇ」
F美はしみじみとつぶやいた。


「ホントだよね、今から考えるとウソみたいだよ(笑」
「でもさー、よく覚えてるよね、それだけ」
「うん、なんか覚えてるんだよね」
「それだけU子ちゃんの事が特別だったんじゃない?」


「そうかもしれない。だからこそコーヒーショップの彼女が危機感を感じたんだろうね〜」
「あはは。あのU子ちゃんを徹底的に嫌がってた子?」
「そう(笑」




その彼女は、U子の写真を見た事があり、顔を知っていた。
だから尚更気に掛かっていたのだと思う。


それに僕が残しておいたU子の写真や手紙も原因だった。
「残してるのは未練があるからじゃないの?!」
そう言って僕につっかかってきたのだ。
 ※この「手紙・写真盗み見事件」が発展して別れる事になった




「その頃は引きずってたの?」
「どうだろう。もう吹っ切れてたとは思うんだけどね」
「ふ〜ん。でもその子、菅野美穂が嫌いだったんでしょ?」
「あはは、良く覚えてるなぁ、そんな事。似てたからね、U子と菅野美穂って」
「似てたよね〜。で、映画はどうなったの?」


++


その10へ続く