日本海からの電話

○10月15日:ぞうりの日
      →理由不明
 
 

  1. +

 
 
ちょっと小説風は休憩。
 
 
 
 
友達とお茶していたら、つい最近起こった「集団自殺」の話になった。
まだ練炭使ってるんだ、とか思ってたんだけど
  
 
 

ふと僕の知り合いにリストカッターが居た事を思いだした。
 
 

  1. +

  
 
僕が24歳の時に高校2年生だったその子は、たまにリストカットをしていた。
 
 
 
 
彼女からその独白を聞くまで、まったく気付かなかったのは
僕の観察力が乏しいからであろう。
 
 
 
 
 
僕は彼女と地下にある喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
普段から「明るい←→暗い」を繰り返す、情緒不安定なトコロがあるのは知っていた。
 
 
 
その日は、いつにも増して暗くせっかくの制服姿も台無しな状態だった(笑
 
 
 
 
「また切っちゃった」と彼女が言ったとき、僕は何の事か分からなかった。
「何を?」
「これ」
 
 
 
 
 
そう言って彼女は制服のブラウスの袖をあげ、傷のついた手首を僕に見せた。
 
 
 
 
 
 
「・・・・何で?」
僕はそう言うのが精一杯だった。
 
 
 
 
リストカットをした人に会うのは初めてだったし
その傷跡を見るのだって初めてだったのだ。
 
 
 
 
 
 
そして彼女はぽつりぽつりと語りだした。
 

 
 
家にはあまり帰りたくない事
学校も一部の人を除いて最悪な事
母親との不仲
父親の異常なまでの愛情
 
 
 
 
 
 
一つ一つはその年頃の子にとって、あり得る話だと思ったが
父親の事だけは正直、驚いた。
 
 
 
 
 


 
父親から受ける間違った愛情。
父親は愛情と思っていても、彼女は愛情として受け入れられない現実。
 
 
 
 
 
 
 
つまり
 
 
 
 
 
父親による度重なるレイプ。
 
 

  1. +

 
 
 
僕には衝撃だった。
そりゃぁ手首の一つでも切りたくなるだろう、と思った。
 
 
 
 
それから数ヶ月した頃、深夜に彼女から電話があった。
彼女は小さな声で何かを喋っていた。
 
 
 
 
どこに居るのか尋ねたら、日本海にいると言う。
 
 
  
 
 
僕は訳が分からなくなって問いただすと
 
 
 
 
 
海に飛び込んで、結局助け出されて、どこかの民宿に居ると言った。
 
 
 
 
 
 

僕は彼女が満足するまで電話に付き合った。
それ以外、僕に出来る事は無かった。
 
 

  1. +

 
 
全てが狂言だったのかもしれない。後からそうも考えた。
 
 
 
 
 
「何か」の気を引くために、軽く手首を切ったのかもしれない。
家の近所の公衆電話から僕に電話してきたのかもしれない。
 
 
 
 
 
でも、その真偽が僕に分かる訳がない。
確かめる事は出来ないし、その方法も思いつかなかった。
 
 
 
 
 
9割狂言と思っていても、残りの1割を無視する事は出来なかった。
 
 

  1. +

 
 
彼女が、何故そんな独白の相手に僕を選んだのかは分からない。
 
 
 
 
あれから7年も経ったし、今更どうでも良い事だ。
 
 
 
 
 
今となっては「子供、産まれたよ」などと写真を送ってくるくらいだから
きっとダンナと子供に囲まれ、良い生活をしているのだろう。