4・真実と認識の差 

■今日のアクマ■

「追伸」
女性が書く手紙の中で、急いでいる時はそこだけ読めば良い部分

引用:新編 悪魔の辞典 (岩波文庫)



「へー。ぽんにもそんな純な頃があったんだ(笑」
やっと「さん付け」が取れた呼び方でW子は笑いながらそう言った。




「そりゃそうだよ、17歳とかだもん」
僕も笑ってそう言った。






「ねぇねぇ」
W子はうつ伏せの体勢になり、両肘で上半身を浮かせ、
僕の顔をのぞき込みながら聞いてきた。


「ん?」




「ぽんの17歳って、どんな感じだったの?」
「ヤなガキ(笑」
「あはは。なんで〜?」
「態度がデカい って大勢に凹られたのに、翌日からもっと態度をデカくしてたから(笑」
「あははー なにそれ〜」


僕はその当時の事をかいつまんでW子に教えた。








「そりゃぁ・・・確かにヤなガキだよねー」
W子は笑いながらそう言った。


「でしょ。しかも未だにヤなガキのままだし」
「あはははは」




「ね。その後、U子さんとはどうしてそうなったの?」
ひとしきり笑ったW子は、僕に話の続きをせがんだ。






ーーー1991年春


僕は高校を卒業し、専門学校へ進学した。
U子は2年生になり、僕の居ない高校生活を始める事になった。




専門学校は忙しいとはいえ、それでも土日は空いていたので
時間を見つけてはU子と会って色々な所へ出掛けた。




僕は、今では信じられない話だけど
その頃はとてもよくお酒を飲んでいた。


先輩とかとの飲み会は高校時代からしょっちゅうやってたし
専門学校の友達ともよく飲んでいた。


たまたま知り合った違う科の子の家に行って
何人かで飲み会をする事もあった。




家で飲み会ともなれば、当然雑魚寝になるし
16歳の頃からそういう光景はアタリマエだったので、僕は何の気ナシに飲み会に行っていた。
 ※さるさるの2002年4月3日2002年4月4日を参照




しかし、門限が7時というU子にしてみれば
それはあまり楽しい事ではなく「女の子も居るんでしょ?」という否定的な態度だった。


だから僕は飲み会の時は大勢で雑魚寝
という事だけを喋り


一人で泊まった事は一切話さなかった。




やましい事は全く無かったけれど
僕の真実とU子の認識の間に差があるのは明確だったので
敢えて話さずに隠したのだ。




それを「隠し事をしている」と言い寄られれば反論は出来ないが
余計な誤解と疑いを持たせたくなかったから隠したのだ。




そもそも最初から女の子の家に一人で行かなければよい
という事も言えるだろうけれど、僕にも新しい環境での人付き合いもある。


だから結局は土日にU子と会い、
平日は学校の友達と遊んだりしていたワケだ。






そういった部分での、「ケンカとまではいかないまでも、何となく不信感」
という事を除けば、僕とU子は非常に良い関係を続けていた。


少なくとも僕はそう思っていたし、ずっとその関係が続くと思っていた。





ーーー2006年


「ふうぅぅ〜ん」
W子は楽しそうに僕のハナシを聴きながら頷いた。


「その、違う科の子とは何も無かったの?」
「うん、何も無かった。すっごく仲は良かったけど、恋愛感情は無かったかなぁ」
「でもさ、その時ぽんは18歳でしょ? そういうサカリじゃないの?」
「あははは。まぁサカリではあったけど、その子に対しては何も無かったよ」
「えー ホントにぃ〜?」
W子は疑わしそうにそう聞いた。
僕は体を起こしタバコに火を点け、ハナシを続けた。


「その時はね、U子の事が好きだったから他に欲は向かなかったし
 友達も、多分淋しかっただけなんじゃないかな」
「なんでそう思ったの?」
それは当然の疑問だった。なぜ、その友達が「淋しかっただけ」と僕が知り得たか。


「その子ね、高校の時に好きだった先輩を追って、その専門学校に進学したの」
「マジ?」 W子は目を丸くしてそう答えた。
「マジ(笑」
「そういうのってホントにあるんだ〜」
「ねー。僕もそれを聞いたときびっくりしたもん。でも何となくその気持ちは分かったからさ。
 そんな子に対して、何も出来るワケないじゃん(笑」
「あはは。アクマとは思えないようなセリフだー」
W子はそう言って笑ったけど、その時の僕はまだアクマでは無かったのだ。






「でもさー、なんでぽんのその頃が、あたしの今と似てるって思ったの?」


そもそも僕がこの話をW子にしたのは、
僕とU子の別れるに至った経緯・もしくは心情が
W子とW子のカレに似ていたように思ったからだった。




ーーー1991年初夏


高校を卒業する前に車の免許を取った僕は
休みの日になればU子と車で出掛けた。


僕の家に来た時も、帰りは車で送っていった。





[独り言] 怒濤のシャックリ