25・底なし沼
□2007年1月・4□
W子との電話が終わった後、僕はW子にメールを送った。
「ひとつだけ言っとくね。
状況とかいろいろあるけど、そんなん無視して僕はW子が大好き。
だから手放したくない。単純にそれだけ。
もちろん状況を抜きに考えるのはナンセンスだけど、大前提としての気持ち」
その気持ちは僕の本心だったし、
それで少しでもW子の感情が落ち着けば良いな、と思っていた。
しかし、
W子からの返事は僕の期待とは少し外れていた。
「メールありがとう。
いろいろ話したいけど、今日はまず、頭を冷やします」
そっか。
頭を冷やしたい、か。
まぁ、それもそうかな・・・
僕は少し落胆した気持ちでその日を過ごした。
翌日になって、もう一度W子からメールが届いた。
「今日は考え事に耽ります」
そのメールが届いたっきり、その日はもうメールが届く事が無かった。
まぁ、明日会えばいつも通りになるのかな?
僕はそう気楽に考えていた。
☆
翌日は、年が明けてから初めて会える日だった。
「ちょっと遅れちゃうかも」
というW子からのメールに、僕は少し意地悪な気持ちになった。
「ほーい。僕の方が早いかな? ブラブラしてるから見つけてね♪」
「わかったぁ〜。急ぐね! どの辺に居るの?」
「んーとね、どこか(笑」
そんな意味のない意地悪をしてしまう辺り、
僕自身が、何か納得いかない気分だったのだろう。
会いたいのにすぐに会えない僕の状況や
その状況をさっさと壊せない僕自身への苛立ちや
前日、結局メールが来なかった事や
僕は早く会いたいのに、なんでW子は遅れちゃうんだろうという不満や
そういった色々な感情が混じり合っていた。
☆
「そしたらさ、ヨメさんを美容院に連れてくから、その時にする?」
僕とW子は、たまに行く喫茶店に落ち着き、
どうやったらW子が3人の姿を見れるか話し合っていた。
僕としては3人の姿なんて見せたくもなかったけれど
W子が「そうしないと、どうにもならない」と言っている以上、
彼女の希望を受け入れるしかなかった。
「何でくるの?」
「バス、かな。バスを降りる場所、知ってるよね?」
「うん」
「じゃぁ、着く時間が分かったらメールすれば良い?」
「うん。ごめんね、わがままばっかりで・・・」
「んーん、そんなコトないよ。でも、その分、返してもらわなくっちゃね(笑」
そう言って僕はW子の頭を撫でた。
☆
その週、W子は仕事が忙しく、
いつも会っていた曜日にも会えそうに無かった。
もちろん、お互い仕事をしている身なのだから、
逢えない日があるのは仕方がないし、
むしろ、それまで毎週の平日に必ず逢えていた方が不思議だったのだ。
だから
W子から「私、今週は忙しそうなの(泣」
とメールが届いた時、
僕は「まぁ、仕方がないよな」と思ったのだけど、
スクロールしたその下に
「あ、週末に大学時代の友達とゴハン食べるかも。
・・・行ければ、だけど」
という一文を見た時、なぜか嫌な気持ちになった。
ふ〜ん。
行ければ行くんだ。
僕と逢うのは「忙しそうなの」の一文で終わりなのに、
行ければ行くんだ。
へー
ダメだ、ダメだ。
そんな考え方をしちゃ。
いつもだったら、
「お、それじゃ頑張って仕事を終わらせなくちゃね!
行けたら、みんなによろしくね♪」
と返信するじゃないか。
僕はそう思い直し、
「そっかぁ。逢えないのは残念だなぁ。
でも、頑張って終わらせなきゃ、みんなとゴハン出来ないよ?
気合いの19時上がり、ファイト!」
と返信をした。*1
☆
週の半ばに、
僕はヨメさんに美容院へ連れて行く事を伝えた。
それは子供が産まれてから、
近所への買い物以外で、初めてする3人での外出だった。
僕は日程と時間が決まった事をW子にメールした。
決まった事により、
逢わせたくないと思っていた僕は
どんどんとテンションが落ちていった。
☆
日程が決まった事をメールした日の夜、
W子から「仕事おわったー」というメールも
「ただいまー」というメールも
夜中になるまで届かなかった。
いつも、どんなに遅くても22時頃には仕事を終えていたし、
会社の人とゴハンになっても、それほど遅くなる事は無かった。
もう23時になろうとした頃、僕はメールを送った。
また、ここでも心配性が出てきてしまったのだ
「そろそろ23時だよ?まだ仕事してるの?」
W子からの返信は0時を廻ってからで
「おそくなりました。ただいま」
の一言だけで、結局、日程の事もスルーされたままだった。
W子は、自分で望んだ事なのに、
どうでも良いのだろうか?
僕はそう疑問を感じた。
そして、やはり何も反応が無い事に対し、イラついていた。
「お疲れさま。いろいろ忙しいみたいだね。ゆっくり寝てね」
そう僕は返信し、タイマーメールも送らずにそのまま寝る事にした。
返事も反応も無いのに、一体なにをメールすれば良いというのだ?
僕はそんな心境だった。
翌朝になってもW子からのメールは届いていなかった。
ふーん、結局、何も反応無しか。
そう思って出勤の準備をしてると、やっとメールが届いた。
「昨日はちゃんとメール出来なくてごめんね。
あと、○曜日の事ありがとう*2
美容院の間、ぽんはどうしてるの?」
「メールの事は、僕の脳内でW子に怒ったから、一応許そう(笑
でも、後日ちゃんとフォローをするように。
○曜日の事、昨日何の反応も無いから、どうでも良いのかと思ったよ。
美容院の間は、暖かければ散歩に行ってるかな、僕は」
たぶん、イヤミなんだろうな、この返事・・・
僕はそう思ったけど、これでも抑えに抑えた返事だったのだ。
何で、何度も「大事な事はきちんと伝えてね」と言っても
W子はそれができないのだろう。
そんなに難しい事なんだろうか?
僕はそんな疑問でいっぱいだった。
「フォロー、りょうかいですっ。
○曜日の事はごめんね。
言い訳だけど、ちゃんと落ち着いてありがとうを言いたかったの。
お散歩の時なんだけど、P子を連れて行くなら少しの間、お供をさせてもらって良い?」
W子から、そう返信が来たけど、
やっぱり僕の言わんとする事がわかっていなかった。
やれやれ。もう一度、言わないとな・・・
僕はそう思い、返信をした
「フォロー、期待してるね♪
返事の件だけど、後学のために言っとくと、
そーゆー返事はまず先に一言伝えた方が良いよ。了解の一言だって良いんだし。
そうじゃないとこっちは伝わったかどうか判らないし。
お供は大丈夫だよ〜。あ、美容院の場所は知ってる?」
☆
僕は既に、精神的な泥沼に陥っていた。
イラだちが収まる前に、次の何かが起こり、
どんな些細な事でも、我慢が出来なくなっていった。
どこかで、きちんとW子と話しをしないと、ダメだろうな。
僕はそう思ったけれど、
その機会を設ける事が出来るのが、いつになるかは分からなかった。