25・底なし沼



□2007年1月・4□


W子との電話が終わった後、僕はW子にメールを送った。


「ひとつだけ言っとくね。
 状況とかいろいろあるけど、そんなん無視して僕はW子が大好き。
 だから手放したくない。単純にそれだけ。
 もちろん状況を抜きに考えるのはナンセンスだけど、大前提としての気持ち」


その気持ちは僕の本心だったし、
それで少しでもW子の感情が落ち着けば良いな、と思っていた。




しかし、
W子からの返事は僕の期待とは少し外れていた。




「メールありがとう。
 いろいろ話したいけど、今日はまず、頭を冷やします」




そっか。
頭を冷やしたい、か。
まぁ、それもそうかな・・・




僕は少し落胆した気持ちでその日を過ごした。






翌日になって、もう一度W子からメールが届いた。
「今日は考え事に耽ります」


そのメールが届いたっきり、その日はもうメールが届く事が無かった。




まぁ、明日会えばいつも通りになるのかな?
僕はそう気楽に考えていた。





翌日は、年が明けてから初めて会える日だった。




「ちょっと遅れちゃうかも」
というW子からのメールに、僕は少し意地悪な気持ちになった。


「ほーい。僕の方が早いかな? ブラブラしてるから見つけてね♪」
「わかったぁ〜。急ぐね! どの辺に居るの?」
「んーとね、どこか(笑」




そんな意味のない意地悪をしてしまう辺り、
僕自身が、何か納得いかない気分だったのだろう。




会いたいのにすぐに会えない僕の状況や
その状況をさっさと壊せない僕自身への苛立ちや
前日、結局メールが来なかった事や
僕は早く会いたいのに、なんでW子は遅れちゃうんだろうという不満や


そういった色々な感情が混じり合っていた。





「そしたらさ、ヨメさんを美容院に連れてくから、その時にする?」


僕とW子は、たまに行く喫茶店に落ち着き、
どうやったらW子が3人の姿を見れるか話し合っていた。




僕としては3人の姿なんて見せたくもなかったけれど
W子が「そうしないと、どうにもならない」と言っている以上、
彼女の希望を受け入れるしかなかった。




「何でくるの?」
「バス、かな。バスを降りる場所、知ってるよね?」
「うん」
「じゃぁ、着く時間が分かったらメールすれば良い?」
「うん。ごめんね、わがままばっかりで・・・」
「んーん、そんなコトないよ。でも、その分、返してもらわなくっちゃね(笑」
そう言って僕はW子の頭を撫でた。





その週、W子は仕事が忙しく、
いつも会っていた曜日にも会えそうに無かった。


もちろん、お互い仕事をしている身なのだから、
逢えない日があるのは仕方がないし、
むしろ、それまで毎週の平日に必ず逢えていた方が不思議だったのだ。






だから
W子から「私、今週は忙しそうなの(泣」
とメールが届いた時、


僕は「まぁ、仕方がないよな」と思ったのだけど、






スクロールしたその下に


「あ、週末に大学時代の友達とゴハン食べるかも。
 ・・・行ければ、だけど」




という一文を見た時、なぜか嫌な気持ちになった。




ふ〜ん。
行ければ行くんだ。


僕と逢うのは「忙しそうなの」の一文で終わりなのに、
行ければ行くんだ。
へー









ダメだ、ダメだ。
そんな考え方をしちゃ。




いつもだったら、
「お、それじゃ頑張って仕事を終わらせなくちゃね!
 行けたら、みんなによろしくね♪」
と返信するじゃないか。




僕はそう思い直し、


「そっかぁ。逢えないのは残念だなぁ。
 でも、頑張って終わらせなきゃ、みんなとゴハン出来ないよ?
 気合いの19時上がり、ファイト!」
と返信をした。*1





週の半ばに、
僕はヨメさんに美容院へ連れて行く事を伝えた。


それは子供が産まれてから、
近所への買い物以外で、初めてする3人での外出だった。






僕は日程と時間が決まった事をW子にメールした。




決まった事により、
逢わせたくないと思っていた僕は
どんどんとテンションが落ちていった。





日程が決まった事をメールした日の夜、


W子から「仕事おわったー」というメールも
「ただいまー」というメールも
夜中になるまで届かなかった。




いつも、どんなに遅くても22時頃には仕事を終えていたし、
会社の人とゴハンになっても、それほど遅くなる事は無かった。




もう23時になろうとした頃、僕はメールを送った。
また、ここでも心配性が出てきてしまったのだ




「そろそろ23時だよ?まだ仕事してるの?」




W子からの返信は0時を廻ってからで
「おそくなりました。ただいま」
の一言だけで、結局、日程の事もスルーされたままだった。




W子は、自分で望んだ事なのに、
どうでも良いのだろうか?


僕はそう疑問を感じた。
そして、やはり何も反応が無い事に対し、イラついていた。




「お疲れさま。いろいろ忙しいみたいだね。ゆっくり寝てね」
そう僕は返信し、タイマーメールも送らずにそのまま寝る事にした。


返事も反応も無いのに、一体なにをメールすれば良いというのだ?
僕はそんな心境だった。




翌朝になってもW子からのメールは届いていなかった。




ふーん、結局、何も反応無しか。




そう思って出勤の準備をしてると、やっとメールが届いた。




「昨日はちゃんとメール出来なくてごめんね。
 あと、○曜日の事ありがとう*2
 美容院の間、ぽんはどうしてるの?」




「メールの事は、僕の脳内でW子に怒ったから、一応許そう(笑
 でも、後日ちゃんとフォローをするように。
 ○曜日の事、昨日何の反応も無いから、どうでも良いのかと思ったよ。
 美容院の間は、暖かければ散歩に行ってるかな、僕は」




たぶん、イヤミなんだろうな、この返事・・・
僕はそう思ったけど、これでも抑えに抑えた返事だったのだ。


何で、何度も「大事な事はきちんと伝えてね」と言っても
W子はそれができないのだろう。


そんなに難しい事なんだろうか?


僕はそんな疑問でいっぱいだった。






「フォロー、りょうかいですっ。
 ○曜日の事はごめんね。
 言い訳だけど、ちゃんと落ち着いてありがとうを言いたかったの。
 お散歩の時なんだけど、P子を連れて行くなら少しの間、お供をさせてもらって良い?」




W子から、そう返信が来たけど、
やっぱり僕の言わんとする事がわかっていなかった。




やれやれ。もう一度、言わないとな・・・


僕はそう思い、返信をした
「フォロー、期待してるね♪
 返事の件だけど、後学のために言っとくと、
 そーゆー返事はまず先に一言伝えた方が良いよ。了解の一言だって良いんだし。
 そうじゃないとこっちは伝わったかどうか判らないし。
 お供は大丈夫だよ〜。あ、美容院の場所は知ってる?」





僕は既に、精神的な泥沼に陥っていた。
イラだちが収まる前に、次の何かが起こり、
どんな些細な事でも、我慢が出来なくなっていった。




どこかで、きちんとW子と話しをしないと、ダメだろうな。


僕はそう思ったけれど、
その機会を設ける事が出来るのが、いつになるかは分からなかった。

*1:でも、「19時」という時間にイヤミが含まれていたのは確かです

*2:決まった日程の事