4・リスク



□2007年2月・9□


僕がW子と付き合っている当時、 別居のコトを思いつかなかったのは、
それがあまりに中途半端なことに思えたからだった。


僕としては別居という中途半端なコトでお茶を濁すのではなく、
はっきりと離婚をしようとしていた。




だから、W子との関係が終わった今になって別居をするというのは
その時以上に中途半端で、何の意味も無いコトに思えた。


だからすぐにその考えは却下した。





じゃぁ、どうする?




そう思った僕は離婚を決心した。






これはよくよく考えた結果だった。




僕はずっと「どうしたらW子が戻ってきてくれるんだろう」
と考えていた。


でも、戻ってくる事はあり得ないのだ。




なぜなら手紙に書いてあったように
W子はすでに「別の場所」で生活していたし、
そこは「僕の手も気持ちも届かない」所だったのだ。


「苦しくて辛い」僕の横から「その場所」へ行ったW子が、
また戻ってくる可能性は無かった。






じゃぁ、どうする。




そう、僕が「その場所」へ行けば良いのだ。


「手も気持ちも届かない場所」に居るのであれば
僕が「手と気持ちが届く」場所へ向かっていけば良いのだ。




しかし、その場所でW子は既に「穏やかな恋」をしている。
そこへ僕が辿り着いても、もう僕へ笑顔は見せてくれないかもしれない。




でも、今の場所に居る限り、それは本当にゼロだ。


僕は少しでも可能性のある方を選びたかった。




W子は「いまさら何よ」と思うかもしれない。
「そんな事されても迷惑なのよ」と思うかもしれない。




でも、それでも
僕にはW子が必要だし、強く求めているのだ。





しかし、決心した事と決断する事はまた別で、
実際のトコロ、僕は悩んでいた。






それはリスクの大きさだった。


それは「離婚する事」についてのリスクではなく




「それでも結局W子には振り向いてもらえない」
というリスクだった。




もし、僕が離婚をせず、ダラダラと生きていれば、
何年かしてW子と「フツーに友達」になれるかもしれない。


でも、もし、僕が離婚を実行してW子に歩み寄って
それでもダメだったとしたら、


確実にW子との関係は切れてしまうだろう。




つまり、
「手に入れる事は出来ないけれど、関係は切れない」という事と
「完全に失う」という事を比べた場合、


明らかに後者の可能性が高いのだ。




完全にW子を失うリスクを考えると
僕は心臓が潰れてしまうほど怖くなった。





しかし、今のままでは何も進展はしない。


ただ、
毎日グダグダと落ち込んでいるだけだ。




でも、僕が今の「場所」から離れるコトが出来れば
その時、初めて僕はスタートラインに立てるかもしれない


それはゼロからのスタートかもしれない。
マイナスからのスタートかもしれない。


しかし、スタートラインに立つことさえ出来ないより
立てるかもしれないだけ、まだマシだった。