4・リスク
□2007年2月・9□
僕がW子と付き合っている当時、 別居のコトを思いつかなかったのは、
それがあまりに中途半端なことに思えたからだった。
僕としては別居という中途半端なコトでお茶を濁すのではなく、
はっきりと離婚をしようとしていた。
だから、W子との関係が終わった今になって別居をするというのは
その時以上に中途半端で、何の意味も無いコトに思えた。
だからすぐにその考えは却下した。
☆
じゃぁ、どうする?
そう思った僕は離婚を決心した。
これはよくよく考えた結果だった。
僕はずっと「どうしたらW子が戻ってきてくれるんだろう」
と考えていた。
でも、戻ってくる事はあり得ないのだ。
なぜなら手紙に書いてあったように
W子はすでに「別の場所」で生活していたし、
そこは「僕の手も気持ちも届かない」所だったのだ。
「苦しくて辛い」僕の横から「その場所」へ行ったW子が、
また戻ってくる可能性は無かった。
じゃぁ、どうする。
そう、僕が「その場所」へ行けば良いのだ。
「手も気持ちも届かない場所」に居るのであれば
僕が「手と気持ちが届く」場所へ向かっていけば良いのだ。
しかし、その場所でW子は既に「穏やかな恋」をしている。
そこへ僕が辿り着いても、もう僕へ笑顔は見せてくれないかもしれない。
でも、今の場所に居る限り、それは本当にゼロだ。
僕は少しでも可能性のある方を選びたかった。
W子は「いまさら何よ」と思うかもしれない。
「そんな事されても迷惑なのよ」と思うかもしれない。
でも、それでも
僕にはW子が必要だし、強く求めているのだ。
☆
しかし、決心した事と決断する事はまた別で、
実際のトコロ、僕は悩んでいた。
それはリスクの大きさだった。
それは「離婚する事」についてのリスクではなく
「それでも結局W子には振り向いてもらえない」
というリスクだった。
もし、僕が離婚をせず、ダラダラと生きていれば、
何年かしてW子と「フツーに友達」になれるかもしれない。
でも、もし、僕が離婚を実行してW子に歩み寄って
それでもダメだったとしたら、
確実にW子との関係は切れてしまうだろう。
つまり、
「手に入れる事は出来ないけれど、関係は切れない」という事と
「完全に失う」という事を比べた場合、
明らかに後者の可能性が高いのだ。
完全にW子を失うリスクを考えると
僕は心臓が潰れてしまうほど怖くなった。
☆
しかし、今のままでは何も進展はしない。
ただ、
毎日グダグダと落ち込んでいるだけだ。
でも、僕が今の「場所」から離れるコトが出来れば
その時、初めて僕はスタートラインに立てるかもしれない。
それはゼロからのスタートかもしれない。
マイナスからのスタートかもしれない。
しかし、スタートラインに立つことさえ出来ない今より
立てるかもしれないだけ、まだマシだった。