10・不信感、信頼感



□2007年2月・14□


「ぽんさん、自分で全部決めちゃうでしょ?」
K子がそう言ったのは、色々な事柄に対してだった。


「どうだろ」
僕は過去を思い出してみたけれど、ハッキリとは思い出せなかった。


「相談とかした事あります?」
「あまりない(笑」





僕は確かに相談というモノをあまりした事が無かった。


それは自分で何かを決める事に慣れていたからで、
他人のアドバイスは参考にはしたけれど、
アドバイス通りに何かを決定する事は無かった。


しかし、それをK子のコトバで現すと
「ぽんさん、それってお友達は「信用されてない」って思っちゃいますよ?
 みんなは心を開いてぽんさんに相談するのに、ぽんさんは相談しないんですもん」
という事になるようだった。




「でもさ、信用してない って事は無いんだよ、ちっとも」
「でも、相手が「信用されてない」って思っちゃったら
 それは信用していない事になっちゃうと思いませんか?」


「うーん、そうなのかなぁ」
僕は考え込んだ。




相談しない=信用していない=壁が高い
と思われるのは不本意だったけど、
それは僕の主観であり、第三者の主観ではなかった。




そういう意味では
僕の想いや考えがどうあれ、他の人がそう捉えているのであれば
確かに僕は「他人を信用しない人間」なのかもしれなかった。




ただ、一つハッキリとしているのは、
僕は、考えている事を相手に伝えはするけど、
思っている事をあまり伝えたりはしなかった。





「そういえば・・・」
僕はふと思い出した事があった。


「なんですか?」
K子は僕を見て聞き返した。




「僕さ、親にも相談ってした事ないや(笑」
「例えばどんな事ですか?」
「なんでも。進学にしても、就職にしても、何もかも」
「そうなんですか?」
「うん。全部自分で考えて、決めて、結果を伝えただけ(笑」
「どうして相談しなかったんですか?」
「さぁ」
僕は笑ってそう答えた。




別にはぐらかしたワケではなく、本当に「さぁ、何でだろう」だったのだ。


高校を決める時も、
専門学校に進学を決めた時も
就職先を決める時も
転職した時も


僕は全て自分一人で考えて、悩んで、決定をした。




「じゃぁ、ぽんさんはご両親の事も信用してないんじゃないですか?」
K子は笑いながらそう言った。


「そうかもしれない」
僕も笑いながらそう言った。




僕は笑いはしたが「ひょっとしたらそうかも」
という考えが頭をよぎった。




「僕、ひょっとしたら、信用も信頼もしてないかも、親に対して」
僕はK子にそう言った。


「なんでそう思うんですか?」


「どう言えば良いんだろ。別に親に不信感を持ってるワケじゃないけど、
 改めて、信頼してるとか信用してるとかは思えないかも。
 つまりさ、不信感もなければ、信頼も無くて、中間、みたいな感じ」


「う〜ん、分かるような、分からないような」
K子は苦笑いしながらそう言った。




「ぽんさん、ご両親に対して、どんな感情を持っていますか?」
「感情?」
「そう、感情。愛情とか憎悪とか、色々あるじゃないですか」




「あ、そういうことか。何も無いよ」
僕は笑ってそう答えた。


「何も?」
K子は聞き返した。




「うん。ただ、親ってだけ。それ以上でもそれ以下でもなく」




僕の答えを聞いたK子は、
一瞬ため息をついたように見えた。