10・不信感、信頼感
□2007年2月・14□
「ぽんさん、自分で全部決めちゃうでしょ?」
K子がそう言ったのは、色々な事柄に対してだった。
「どうだろ」
僕は過去を思い出してみたけれど、ハッキリとは思い出せなかった。
「相談とかした事あります?」
「あまりない(笑」
☆
僕は確かに相談というモノをあまりした事が無かった。
それは自分で何かを決める事に慣れていたからで、
他人のアドバイスは参考にはしたけれど、
アドバイス通りに何かを決定する事は無かった。
しかし、それをK子のコトバで現すと
「ぽんさん、それってお友達は「信用されてない」って思っちゃいますよ?
みんなは心を開いてぽんさんに相談するのに、ぽんさんは相談しないんですもん」
という事になるようだった。
「でもさ、信用してない って事は無いんだよ、ちっとも」
「でも、相手が「信用されてない」って思っちゃったら
それは信用していない事になっちゃうと思いませんか?」
「うーん、そうなのかなぁ」
僕は考え込んだ。
相談しない=信用していない=壁が高い
と思われるのは不本意だったけど、
それは僕の主観であり、第三者の主観ではなかった。
そういう意味では
僕の想いや考えがどうあれ、他の人がそう捉えているのであれば
確かに僕は「他人を信用しない人間」なのかもしれなかった。
ただ、一つハッキリとしているのは、
僕は、考えている事を相手に伝えはするけど、
思っている事をあまり伝えたりはしなかった。
☆
「そういえば・・・」
僕はふと思い出した事があった。
「なんですか?」
K子は僕を見て聞き返した。
「僕さ、親にも相談ってした事ないや(笑」
「例えばどんな事ですか?」
「なんでも。進学にしても、就職にしても、何もかも」
「そうなんですか?」
「うん。全部自分で考えて、決めて、結果を伝えただけ(笑」
「どうして相談しなかったんですか?」
「さぁ」
僕は笑ってそう答えた。
別にはぐらかしたワケではなく、本当に「さぁ、何でだろう」だったのだ。
高校を決める時も、
専門学校に進学を決めた時も
就職先を決める時も
転職した時も
僕は全て自分一人で考えて、悩んで、決定をした。
「じゃぁ、ぽんさんはご両親の事も信用してないんじゃないですか?」
K子は笑いながらそう言った。
「そうかもしれない」
僕も笑いながらそう言った。
僕は笑いはしたが「ひょっとしたらそうかも」
という考えが頭をよぎった。
「僕、ひょっとしたら、信用も信頼もしてないかも、親に対して」
僕はK子にそう言った。
「なんでそう思うんですか?」
「どう言えば良いんだろ。別に親に不信感を持ってるワケじゃないけど、
改めて、信頼してるとか信用してるとかは思えないかも。
つまりさ、不信感もなければ、信頼も無くて、中間、みたいな感じ」
「う〜ん、分かるような、分からないような」
K子は苦笑いしながらそう言った。
「ぽんさん、ご両親に対して、どんな感情を持っていますか?」
「感情?」
「そう、感情。愛情とか憎悪とか、色々あるじゃないですか」
「あ、そういうことか。何も無いよ」
僕は笑ってそう答えた。
「何も?」
K子は聞き返した。
「うん。ただ、親ってだけ。それ以上でもそれ以下でもなく」
僕の答えを聞いたK子は、
一瞬ため息をついたように見えた。