12・自己保身



□2007年2月・16□


「結局、ぽんさんは自分自身が一番大事なんですよ」
K子はハッキリとそう言った。




まぁ、そうだろうな・・・


僕は素直にそう思った。




僕は基本的に
「自分自身がしっかりしていないと、何も出来やしない」とか
「僕自身が満たされないで、他のヒトを満たす事は出来ない」といった考え方をしている。


それは「何事もカラダが資本」に近い意味であったけど
他のヒトが僕を見て「自分自身が一番大事」と受け取っても仕方の無い事だった。




「それに・・・ ぽんさん、自分の事、大好きでしょ(笑 」
K子は笑ってそう言った。




「あははは。好きだねぇ」
僕も笑った。




僕は自分の性格とか考え方を気に入っていたし、
僕には僕なりの正論と倫理があった。


それを他人に求める事はしないけど、
否定される事も望みはしなかった。




それは僕自身が作り上げてきた僕そのもので、
一種のアイデンティティであったのかもしれない。




他の人がそれを受け入れてくれるかどうかは
僕の問題ではなく、相手の問題だから、
僕は敢えて自分から相手に合わせたりする事はしなかった。


僕としては「分かってくれるヒトだけ分かってくれれば良い」と思っていたけど、
ヒトによってはそれを傲慢と受け取るだろうし、付き合いづらいと考えた事だろう。





「アタシ、もう電車無いですよ」
K子がそう言ったのは、閉店直前のお店を出た後だった。


「マジで?」
「まじで(笑 」


参ったな・・・・
こんなトコからタクシーで帰すワケにもいかないし、
ほっぽり出すワケにもいかないし・・・




「んー、どうしよう(笑」
僕はそう言って笑ったけど、内心では困っていた。




「アタシは別にどうでも構わないですよ?」
「構わない って?」
「始発が動くまでブラブラしてても良いですし」
「ん〜・・・・」


始発まで って言われても、僕はそれに付き合うワケにはいかなかったし、
かといって一人でさっさと帰るワケにもいかなかった。




「そしたら、車で送って行こうか? 会社に戻れば車あるし」
僕はそう提案してみたけれど、K子の答えは


「アタシ、道わかりませんよ(笑」
という一言だった。


地図を見れば道なんて分かるけど、僕は往復にかかる時間を計算していた。
どう早く見積もっても家に帰るのは2時か3時だった。




面倒な事になったなぁ・・・


僕はそう思ったけど、K子は何やら楽しんでいる感じだった。




「ほら、悩んでる(笑」
K子は笑いながらそう言った。


「え?」僕は聞き返した。


「ぽんさん、今、面倒くさいとか、困ったとか考えてたでしょ。
 離婚考えてる って言うワリには家の事を考えてるんですね(笑」




「そりゃぁ・・・ 厄介な事になったらヤだもん」
「それは分かりますよ? でもアタシの事なんて考えて無かったでしょ?」




・・・うん
僕は心の中でそう答えた。




確かに、その時の僕は、
どうやって言い訳をするか とか
どう言えば面倒な事にならないか とか
そういった事を考えていた。




「だからぽんさんは自分の事しか考えてない って言ったんです」
「・・・・・・」


僕は何も言えなかった。




「ぽんさんの、そういう部分を、彼女さんも分かっていたじゃないんですか?」





あまりにキツい一言だった。


そして、きっとK子の言う通りなのだろう。




「そうかもしれない・・・・」
僕は素直にそう答えた。




「いくら口で「離婚する」なんて言ったって、イザって時に家の事を考えてるヒトの事、
 彼女さんはどんな気持ちで見てたんでしょうね」


K子は容赦なく言葉を続けた。




「でもさ、別に家の事を考えてたワケじゃないよ。
 厄介な事にしたくないだけだもん」


「それはぽんさんの立場から見ればそうですけど、
 彼女さんや、今の私から見れば、早く家に帰りたいって感じにしか見えませんよ?」




「だからこそ、彼女さんはぽんさんと別れたんじゃないんですか?」
K子はそう言って、シッカリと僕の目を見据えた。