16・利用価値



□2007年2月・20□


僕は思いつく限りの昔話をK子に向かってしていた。


一通り聞き終えたK子は改めて僕の目を見た。
「ぽんさん、お友達と仲は良かったですか?」
「友達? そうだなぁ、高校の頃はともかく、中学の時は仲が良かったよ」
「でも、ぽんさんはそのお友達と深い話ってしてませんよね?」


深い話?
僕は首を傾げた。


深い話ってなんだろう。
フツーに遊んで、フツーに話をして、フツーに仲が良くて。
それ以外に何があるのだろう。


僕はそう思い、「深い話って、どんな感じの事?」とK子に聞いた。


「きっと、お友達はぽんさんに相談とかしたかったんですよ、イロイロな事を」
「そうなの?」僕は少し驚いた。
「もっと心を開いて話をしたかったんです」
「開いてたとは思うけど・・・」
「普通に話をしてるだけで?」


そう言われると、僕は何も言えなかった。
確かに普通に話をしているだけで、深い話はしていなかった。




「お友達は、もっとぽんさんの事を知りたくて、心を開いてきてくれても、
 ぽんさんは心を開くのを嫌がって、ぷいってソッポを向いちゃうんです」


「そうなのかなぁ」僕は少し不服な感じがした。




「そうなんです(笑 で、お友達はぽんさんに信頼されてない って思うんです」
「なんで?」
「心を開いてくれないし、悩みも相談してこないし」
「だって、別に相談する事なんて無かったもん(笑」


僕は笑ってそう答えた。


「それは一人で解決しちゃうぽんさんの場合は、ですよね?
 でも、みんながみんな、そうじゃないんですよ?」


あぁ、そうか。そういう事か。


「って事は、僕は何も意識せずに自分で解決してたけど、
 友達はそれを「信頼されていないから」って受け取ってた って事だよね?」


「そうです。ぽんさんってホント疑り深いし、他人を信用しないし、計算高いですよね(笑」
K子は笑いながら辛辣な言葉を僕に浴びせた。


「友達同士って、信頼して相談しあったりして絆を深める部分ってあるんですよ?」
「別に信頼してない って事は無いんだけどなー」
僕はそう言ったけど、K子は頷きはしなかった。




「6年前、私が最初にぽんさんに会った時の第一印象を教えてあげましょうか?」
「うん」
「この人、絶対私を信用してなくて、疑った目で見ている って感じでした」
「げー、そんなヒドイ?(笑 そんな事無いんだけどなぁ」
僕は笑いながらそう答えた。


「表情は笑ってましたけどね、ニコニコしながら。
 でも、その奥底には計算が渦巻いてましたよ(笑」


「そうなのかなぁ」
「そうなんですよー。
 ぽんさんの計算はね、この人は自分に対して何をしてくれるんだろう
 っていう計算なんですよ。つまり利用価値」


「そんな事、無いとは思うんだけど」
僕は力無くそう答えたけれど、当たらずも遠からずな意見ではあった。





僕は知り合った人に対して利用価値を求めはしないけれど
この人は僕の生活にどんな影響を与えるんだろうなという興味と期待は持つ事がある。


誰しもその傾向はあるとは思うけど、
僕の場合、それが損得勘定のようになってしまているのかもしれない。


だからこそ、K子は「利用価値」とまで言ったのであろう。




でも確かに僕は友達を「選ぶ」傾向は強かった。


インスピレーションを与えてくれる人
ポジティブな人
会話のテンションが合う人


僕はそういった人たちとの付き合いを重視し、
逆にそれに見合わないと、カケラも付き合う気がなかった。




正直に言えば、
「そんなヤツと友達なんてやってられっかよ。無駄くせぇ」
という感じで見下していた部分もあると思う。


その「無駄」という部分が損得勘定であり、利用価値なのだろう。




僕自身はそのつもりが無かったとしても、
相手が利用価値と受け取ってしまっていたとしたら、
それはやはり利用価値を求めている事になってしまう。




そう考えると、
高校時代のトラブルにも納得が行くような気がした。




おそらく、
僕は知らず知らずのうちに、周りを見下していたのだろう。