4・少しずつ



□2006年2月□


W子を初めて抱いた後に感じた「結果として隣にいるのがW子でもいいかな」
という感情は、その後も薄れる事はなかった。





My子と終わらせた後、僕はW子に「どんな事を話したか」を正直に伝えた。




「やっぱ、鬼だよね、僕」


僕は半笑いでそう言ったけど、
W子は「その鬼はアタシと半分こだから」と言ってくれた。




「でもさ、ひでぇハナシだと思うよ、自分でも」
「なにが?」
「だってさ、子供をダシに使ってんだもん」
「まぁ、そうだけどさぁ。でもウソはついていないでしょ?(笑」
「まあね(笑」




ひでぇハナシだろうが何だろうが、
これで僕はW子にきちんと気持ちを向ける事が出来た。





2月のある日、僕とW子は初めて夕飯を食べに行った。
ゴハンが終わった後、僕の一番気に入っているバーに行き、少しお酒を呑んだ。






僕は一つ危惧した事があったので、W子に聞いてみる事にした。


「あのさ、僕がW子を好きになったり、抱きたいって思うのがさ、
 ヨメさんが妊娠したから って思ったりしてなぁい?」


「ん・・・・少し思ってる、かも」
W子は少し困った顔でそう答えた。




奥さんが妊娠中にダンナが浮気というのは良くあるハナシで、
W子がそう考えたとしても不思議ではなかった。




でも、
僕には「ヨメさんが妊娠してるから」という感覚は一切なかった。




「やっぱりそう思ってたか」
僕は隣に座るW子の手を取りながら話を続けた。






「あのさ、もし僕がSEXしたいだけだったら、My子でも良かったワケでしょ? 黙ってりゃ良いんだもん。
 でも、そうじゃなくてさ、僕はW子を好きになったからMy子と終わらせたワケだし、
 W子の事が好きだから、W子の事を抱きたいと思うワケ。そこにヨメさんの事は関係ないよ」




「うん。ありがとう」
W子は安心したような笑顔で頷いた。




実際、僕はW子以外の誰ともSEXしたいとは思わなかったし、
仮にそういう状況になってしまったとしても、僕は逃げ出したことだろう。
 →現にE美の誘いからは逃げ出す事ばかり考えていたし(笑


だから逆説的だけど、ヨメさんが妊娠している状況というのは有り難かった。
理由も説明もなく、何もしなくて済むのだ。





この頃から、お互いがお互いを強く求めるようになってきた。
もちろん肉体的にもだけど、それ以上に精神的に求めていた。






バレンタインが過ぎたある日、W子は彼との事で酷く落ち込んでいて
いつものようにお茶ではなく、パーっと遊ぼう という事になった。


W子が落ち込んでいる原因が「彼」という事に対し、
僕は少し嫉妬し、そして不安になっていた。


遊びながらいろいろ話をしよう。
そう思った。






二人でワイワイと笑いながら遊んでいると、段々とW子の顔に笑顔が戻ってきた。


「今日、会えて良かった。いま、気持ちがすごく軽いの。
 もうちょっと早くほぐせれば、ぽんももっと楽だったよね。
 ちゃんと、いろいろと言うようにするね」


そう言ったW子は、いつもの笑顔に戻っていた。





W子が彼との付き合いに対して「苦」を感じだした事情は色々あったけど、
一番大きかったのは「求めるモノの違い」だったと思う。




それでも彼と別れるのには抵抗があった。




彼と別れてしまうと、残ったのは既婚の僕。
しかもヨメさんは妊娠中。




そんなロクでもない相手しか残っていないのだ。






実際、W子は不安も不満もあったし、グラグラと揺れていた。


W子にしてみれば
「独身の彼」、つまり平坦な道と
「既婚の僕」という一本橋のどっちを選ぶか という状況だった。






それでもお互いがお互いを必要としていたし、
だんだんと「先の事を考えようね」といった雰囲気になってきた。






「ぽんと居るとね、二人でがんばって行きたいなぁ って思うの。
 そのことが嬉しいの」
ある日、W子はそう呟いた。










「うん。少しずつ、前に進んで行こうね」
僕はそう答えた。





[独り言] スキラ チ