11・一年



□2006年7月・1□


「すご〜い。来るたびに綺麗になってくね、お部屋」


そう言ってW子が感動したのは
僕の家に遊びにきた4回目くらいの時だった。





ヨメさんが実家へ戻っている間、
忙しかったけど随分とリラックスした毎日を送っていた。




仕事が早く終わった時は自炊し、遅い時は食べて帰ったけど、
冷蔵庫の食材を処理しなければならない という現実的な問題もあって、
トータルで考えると自炊していた方が多かった。


時間が無ければパスタで済ます事もあったし、
野菜を適当に使ってスープにしたり、
冷凍のご飯を食べたりしていた。






そして、
まずは部屋を掃除しよう。
僕はそう思い、毎日少しずつ掃除をするようにした。


シンクと洗い桶を洗い、排水溝を洗い、ガス台を磨き、お風呂を洗った。
全部の部屋に掃除機をかけ、階段を拭いた。
三角コーナーは使えば毎回洗い、廊下と階段は2日に1回掃除した。




そうそう、こうじゃなくっちゃ
何日間かかけ、家全体をキレイにすると、清々しい気分だった。





平日にW子と会ったときは夕飯を外で食べ、家に来てコーヒーを飲んだ。
彼女はネコたちと遊び、僕はその姿を見てニコニコしていた。


ネコたちはだんだんとW子に懐き、
僕にしか見せたことの無い仕草をW子に見せたり、
気が付くとW子の膝の上で気持ちよく寝ていたりした。




休みの日で、僕がヨメさんの実家に行かない日は、
いつもの地元駅で待ち合わせをし、一緒にバスに乗って家まで帰った。


ゆっくりと時間をかけて抱き合い、
夜になると一緒に夕飯を作って食べた。
各々1品ずつ作り、お互いの料理のバリエーションを増やしたりしていった。




「すご〜い。来るたびに綺麗になってくね、お部屋」


そう言ってW子が感動したのは
僕の家に遊びにきた4回目くらいの時だった。


「そりゃそうだよ。ちゃんと掃除してるもん」
「えらいえらい」
W子は僕の頭を撫でながらそう言った。




「だってさ、W子が来てくれるんだもん。キレイにしていたいじゃん」
「えへへ。ありがとう」
「僕さ、ちゃんやるんだよ、色々」
「うん、知ってる(笑」
「ホントに〜?(笑」
「ほ・ん・と・に!」




そんな感じに、穏やかな毎日を過ごしていた。


それが、とりあえず1ヶ月間の限定だと分かってはいたけれど
それでも僕もW子も幸せだった。





その頃、僕とW子は色々な話をした。




旅行はどこに行こうか*1
どこでも良いよ〜
暖かい島が良いな〜
でも、ネコはどうするの?
ん〜、預けるしかないかな(笑
ウチのママに来て貰っても良いよ
あ、それナイス!






式の時にさ、スピーチがあるじゃん
うん
あれってさ、夫婦が長続きする秘訣は とか言うでしょ?
うん
でもさ、僕の場合はとっくに知ってるんだよね(笑
あはははは。そっか
でしょ? だって二度目だもん(笑
でも大人しく聞いてるんでしょ?
もちろん。で、最後にコソっとバラすの(笑
うわー、性格わる〜い
実は経験値が上でした みたいに(笑






もし、もしさ、子連れになっちゃったら、どうする?
うん。アタシ、ママになるよ♪*2





「アタシ、待てるのは1年だと思う」
W子がそう言ったのは、とある土曜日の夜だった。


いつものように一緒にゴハンを食べ、色々な話をし、
そろそろ送っていく時間かな という時だった。


翌日はヨメさんの実家に行かなければならかったので、
少し早めにW子を家に送る事になっていた。




「というか、たぶん、1年しか待てないし、
 それを過ぎちゃったら、どうなるかわかんないよ・・・」
W子はとても不安そうな顔でそう言った。


考えてみれば不安で当然なはずだった。
僕は少しでもW子を安心させたかったし、
僕自身の気持ちを知って欲しかった




「うん、わかった。どんなに遅くても、1年後にはケリをつける」
「うん・・・」
「そのために、色々と下地作りをするから、少し時間が掛かっちゃうかもしれないけど」




下地作りというのは、離婚に対しての下地だった。


一番簡単なのは、
ヨメさんに「ゴメン、好きな人が出来た。離婚しよう」と言う事だったけど、
子供が産まれたばかりで、さすがにそれは出来なかった。


だから僕はある程度の時間をかけて、
色々な事を積み重ね、最終的に離婚に持ち込むつもりだった。


それはW子の事を隠しての離婚だし、
結果としてはヨメさんを悪者に仕立て上げる離婚だった。*3




こりゃ、またオニ・アクマの世界だな
そう思ったけど、僕の地獄行きは決定しているようなモノだったので
あまり気にしてはいなかった。




「下地を作るのはさ、なるべくなら僕自身でケリをつけたいからなの。
 ちょっと時間がかかるけど、W子をそこに巻き込みたくないし・・・」


「うん。でもね、アタシはぽんの事を待ってるから。
 だから、ちゃんと巻き込んでね。オニもアクマも半分こ、させてね」


「うん。ありがとう。でも、辛くなったら言ってね」
「うん。そうする」





そういった会話は、その日だけに限らなかった。


W子が家に来て、帰る時間が近づくと
いつも同じ様な会話を繰り返していた。

*1:新婚旅行(笑

*2:これは、W子のとてもあたたかい優しさだった。すごく嬉しかったけど、それに甘えるワケにもいかなかった

*3:詳しくはCROSS LINE3・13で