11・一年
□2006年7月・1□
「すご〜い。来るたびに綺麗になってくね、お部屋」
そう言ってW子が感動したのは
僕の家に遊びにきた4回目くらいの時だった。
☆
ヨメさんが実家へ戻っている間、
忙しかったけど随分とリラックスした毎日を送っていた。
仕事が早く終わった時は自炊し、遅い時は食べて帰ったけど、
冷蔵庫の食材を処理しなければならない という現実的な問題もあって、
トータルで考えると自炊していた方が多かった。
時間が無ければパスタで済ます事もあったし、
野菜を適当に使ってスープにしたり、
冷凍のご飯を食べたりしていた。
そして、
まずは部屋を掃除しよう。
僕はそう思い、毎日少しずつ掃除をするようにした。
シンクと洗い桶を洗い、排水溝を洗い、ガス台を磨き、お風呂を洗った。
全部の部屋に掃除機をかけ、階段を拭いた。
三角コーナーは使えば毎回洗い、廊下と階段は2日に1回掃除した。
そうそう、こうじゃなくっちゃ
何日間かかけ、家全体をキレイにすると、清々しい気分だった。
☆
平日にW子と会ったときは夕飯を外で食べ、家に来てコーヒーを飲んだ。
彼女はネコたちと遊び、僕はその姿を見てニコニコしていた。
ネコたちはだんだんとW子に懐き、
僕にしか見せたことの無い仕草をW子に見せたり、
気が付くとW子の膝の上で気持ちよく寝ていたりした。
休みの日で、僕がヨメさんの実家に行かない日は、
いつもの地元駅で待ち合わせをし、一緒にバスに乗って家まで帰った。
ゆっくりと時間をかけて抱き合い、
夜になると一緒に夕飯を作って食べた。
各々1品ずつ作り、お互いの料理のバリエーションを増やしたりしていった。
「すご〜い。来るたびに綺麗になってくね、お部屋」
そう言ってW子が感動したのは
僕の家に遊びにきた4回目くらいの時だった。
「そりゃそうだよ。ちゃんと掃除してるもん」
「えらいえらい」
W子は僕の頭を撫でながらそう言った。
「だってさ、W子が来てくれるんだもん。キレイにしていたいじゃん」
「えへへ。ありがとう」
「僕さ、ちゃんやるんだよ、色々」
「うん、知ってる(笑」
「ホントに〜?(笑」
「ほ・ん・と・に!」
そんな感じに、穏やかな毎日を過ごしていた。
それが、とりあえず1ヶ月間の限定だと分かってはいたけれど
それでも僕もW子も幸せだった。
☆
その頃、僕とW子は色々な話をした。
旅行はどこに行こうか*1
どこでも良いよ〜
暖かい島が良いな〜
でも、ネコはどうするの?
ん〜、預けるしかないかな(笑
ウチのママに来て貰っても良いよ
あ、それナイス!
式の時にさ、スピーチがあるじゃん
うん
あれってさ、夫婦が長続きする秘訣は とか言うでしょ?
うん
でもさ、僕の場合はとっくに知ってるんだよね(笑
あはははは。そっか
でしょ? だって二度目だもん(笑
でも大人しく聞いてるんでしょ?
もちろん。で、最後にコソっとバラすの(笑
うわー、性格わる〜い
実は経験値が上でした みたいに(笑
もし、もしさ、子連れになっちゃったら、どうする?
うん。アタシ、ママになるよ♪*2
☆
「アタシ、待てるのは1年だと思う」
W子がそう言ったのは、とある土曜日の夜だった。
いつものように一緒にゴハンを食べ、色々な話をし、
そろそろ送っていく時間かな という時だった。
翌日はヨメさんの実家に行かなければならかったので、
少し早めにW子を家に送る事になっていた。
「というか、たぶん、1年しか待てないし、
それを過ぎちゃったら、どうなるかわかんないよ・・・」
W子はとても不安そうな顔でそう言った。
考えてみれば不安で当然なはずだった。
僕は少しでもW子を安心させたかったし、
僕自身の気持ちを知って欲しかった
「うん、わかった。どんなに遅くても、1年後にはケリをつける」
「うん・・・」
「そのために、色々と下地作りをするから、少し時間が掛かっちゃうかもしれないけど」
下地作りというのは、離婚に対しての下地だった。
一番簡単なのは、
ヨメさんに「ゴメン、好きな人が出来た。離婚しよう」と言う事だったけど、
子供が産まれたばかりで、さすがにそれは出来なかった。
だから僕はある程度の時間をかけて、
色々な事を積み重ね、最終的に離婚に持ち込むつもりだった。
それはW子の事を隠しての離婚だし、
結果としてはヨメさんを悪者に仕立て上げる離婚だった。*3
こりゃ、またオニ・アクマの世界だな
そう思ったけど、僕の地獄行きは決定しているようなモノだったので
あまり気にしてはいなかった。
「下地を作るのはさ、なるべくなら僕自身でケリをつけたいからなの。
ちょっと時間がかかるけど、W子をそこに巻き込みたくないし・・・」
「うん。でもね、アタシはぽんの事を待ってるから。
だから、ちゃんと巻き込んでね。オニもアクマも半分こ、させてね」
「うん。ありがとう。でも、辛くなったら言ってね」
「うん。そうする」
☆
そういった会話は、その日だけに限らなかった。
W子が家に来て、帰る時間が近づくと
いつも同じ様な会話を繰り返していた。