13・布石



□2006年8月□


僕は本格的に離婚に向けての事を考え出した。


W子の「待てるのは1年だから・・・」という事をふまえ、
どんなに遅くとも2007年の6月までにはケリをつけようと思っていた。




こういう時、僕の中の「リアリスト」な部分が顔を出す。
そしてそれは非常に「利己的」だった。




家のローンを払いつつ養育費を払う事に関しては問題がなかったが、
そこに慰謝料が含まれるとなると、財政的に少し厳しい部分があった。


だから僕は「正当な離婚の理由」を見つける事にした。






その理由を簡潔に言うと


仕事を続けていく上でヨメさんの事が負担になった。
子供を育てて行く事はしたいけどヨメさんとの生活は送れない


という内容だ。




そのために僕は幾つかの布石を散りばめていた。


CROSS LINE 3・5で書いた、仕事の事がまさにそれで、
僕が当時ヨメさんに言わなかった建前は「妊娠しているカラダに負担をかけさせたくない」という事だったけど、
本音は「離婚の話を進める時まで取っておこう」という事だった。


離婚の話をするタイミングはまだ先だとは思っていたけど、
どこかの時点で「仕事の状況」を話し、ヨメさんの反応を見るつもりだった。


その話をした時にヨメさんが
「私はどうすれば良い?」と前向きな事を言ったら練り直しになるけど、


もし
「私たちはどうなるの?」となれば、それは僕にとって十分な離婚の理由の一つになった。




何でもかんでも任せっきりかよ
自分では何も考えようともしないのかよ
 と。






そしてもう一つの布石は「何も言わない」事だった。
シンクにしても部屋の埃にしても、何もかも。
→但し一度は言う。二度目以降は何も言わない




僕は、子供が居る事によってヨメさんも少しは衛生について考えが変わるかな?
と思っていたけど、それは嬉しい当てはずれだった。


ヨメさんは洗剤やら石鹸やら授乳時間やら離乳食の時期やら
そういったマニュアル的な事に関しては頑なに自分のやり方(本に書いてある事)を守ったが、
それ以外に関しては全くの落第点だった。


でも、掃除やらなにやらが出来ない事に関しては文句は言わなかった。
忙しくてそれどころじゃない というのは良く分かっていたからだ。


でも、
気付く・気付かない という衛生に対しての関心は、忙しくたって出来るはずだったし、
子供が居るとなれば、関心を持たない方がおかしいと思っていた。




だから僕は黙々と一人でシンクを洗い、ガス台を磨き、
床の掃除をし、ネコの毛を拾い集めた。


それに対し、ヨメさんが気付くか気付かないかを調べていたのだ。




少しでも気付いて僕に何か言ってくれば気付いている証拠。
逆に何も言われなかったら、衛生に対して無頓着な証拠 といった感じだ。




幸い、ヨメさんからは何も言われずに、
僕としては有り難い結果となっていった。





ウソみたいだけど、ヨメさんは本当に何も気付かなかった。
ヨメさんが家へ戻った初日、つまりW子がお泊まりして帰った日、


家の中は今までに無いくらいキレイに片付き、
シンクもガス台も換気扇も階段も廊下も部屋も、
どこもかしこもピカピカになっていたのだ。


だけど、ヨメさんからは何の一言も無かった。





その二つの布石を組合せ、僕は離婚に持ち込む事にした。


とにかく、ヨメさんの「ダメな部分」を積み重ね、*1


いざ離婚の時、
それら全てを理由に「この仕事環境で、そんな人を養いたくない」と持ち込む算段をつけた。





その計画を練り直す必要がある出来事が起きたのは、夏休みの事だった。


それは義妹夫婦の離婚だった。


離婚に至った原因となる「事件」は以前から薄々聞いていたけど、
どうも、ダンナの方が「同じ過ちを2度繰り返し」それにより義妹が三行半を突きつけたのだ。


ヨメさんが退院し、実家に行った時に義妹のダンナが来ていなかったのは、
その時、すでに離婚していたからだった。
義妹はヨメさんに気を遣ってその時は言わなかったらしく、
その8月に僕たちは離婚を知った。


事情から考えれば驚きもしなかったけど、
先を越された事により、僕の離婚の時期を見直す必要が出てきてしまった。




さすがに今年中は難しいよな。
ヨメさん一族としても、一年の間にムスメが二人とも離婚というのは好ましくないだろう。


僕はそう思った。




しかし、それは「W子が我慢出来ていれば」という前提で、
もし「もうダメ、早くなんとかしてっ」という状態になれば、
僕は布石とか関係無しに離婚話を進めるつもりだった。




6日あった夏休みのうち、3日間W子と会っていたけど、
その時に早速その話をした。


「なんかさ、ヨメさんの妹、離婚しちゃったよ・・・」
「え? ホントに?」
「うん。前々からヤバそうなのは知ってたんだけど」
「そうなんだー」
「何か、先を越されちゃったよ(笑」
「あはは。ホントだ」
「ひょっとすると、僕の方は今年中に言い出すのは難しいかもしれない・・・」
「なんで?」
「ヨメさんの家的に、なんとなくヤな感じじゃない? 1年の間に娘が二人ともバツイチになるのって(笑」
「あー、そっかそっか。そうだよねぇ・・・」
「ごめんね・・・」
「ん〜ん。それじゃ仕方ないよね」
「でも、何とかするから、待っててね」
「うん。待ってる♪」




僕はW子の「待ってる♪」という言葉を信じ
その信頼に応えたかった。




「もう少し、もう少しだけ、待っててね」
僕は改めてココロの中でそう思った。





[独り言] みっちゃん?

*1:僕が勝手に創り上げたダメな部分