15・節目の日



□2006年12月・1□


「節目の日に会えて良かったよね」


それは、初めて僕とW子が会った時から、ピッタリ1年経った日だった。


僕とW子は、1年前と同じ喫茶店で同じ席に座り、
1年前の事を話し、楽しんでいた。




「ホント、まさかこうなるとはねぇ」と僕
「ホント、こうなっちゃうとはねぇ」とW子


「でも、僕は嬉しいよ、こうやってW子に出会えた事も、好きになれた事も」
「うん。アタシも。色々あったし、これからの方が大変だけど、嬉しい」
「これからもヨロシクね」
僕はいつものセリフをW子に言った。


僕は「これからもヨロシクね」という言葉が好きだった。
その言葉を口にするたびに、改めてW子の事を想う事が出来たし、
一歩一歩、前進して行ける気がするのだ。


もちろん、言葉に出さなくても想っていたし、前進しているのだけど
それでも言葉に出したかった。


「アタシも、まだまだ困った子だけど、ヨロシクね」
そう言ってW子は僕の顔を見た。





12月というのは楽しい時期ではあるが、
僕の立場としては色々と難しい時期でもあった。




もちろんそれはクリスマスの事だ。


僕としてはクリスマスはW子と過ごしたかったけれど、
日曜日という事もあって出掛ける事も出来ず、諦めるしか無かった。




「ホント、ゴメンね・・・」
「んーん、仕方ないもんね、日曜日じゃ」
「うん・・・」
僕は落ち込みながらそう言った。


「でもさ、来年のクリスマスは一緒に過ごせるからさ」
一年後の事が今年の贖罪になるとは思わなかったけれど、
それでも、僕はW子にそう言った。




そしてそれは僕の強い希望であり、紛れもない本心だった。
来年のクリスマスは、一緒に過ごしたいと。





二人でクリスマスを祝ったのはイブの数日前で、
それはまた偶然にも初めて僕がW子に「好き」と言った日だった。


特別その日を意識したワケでは無かったが、
それでも、やはり節目の日というのは嬉しかった。




それは平日だったのだけど、W子が半休を取ってくれたのだ。
ひょっとすると、意識してその日を休みにしてくれたのかもしれない。




「今日、休みを取ってくれて本当にありがとう」
ベッドの上で僕はW子にお礼を言った。


「んーん。アタシもゆっくり会いたかったし」
W子はそう言ってくれたけど、休みを取るのは大変だったと思う。




僕はココロの中でW子に感謝し、そして謝りもした。
「休みを取ってくれてありがとう。僕の方が時間を作れなくてゴメンね」と。




「そうだ、プレゼント」
既にクリスマスプレゼントは渡していたのだけど、
僕はこの日のために、もう一つ準備をしていたのだ。


僕がクリスマスカードを添えて手渡すと、W子はとても喜んでくれた。
「ホントにホントに、ほんっっとに、嬉しい♪」


その笑顔を見て「良かった、喜んでくれて」と思い、僕も嬉しくなった。
僕はW子の笑顔を見るのがとても好きなのだ。


「ぽんにあげるプレゼント、もう少し待ってね。まだ届かないの」
W子はそう言ってすまなさそうにしていた。


W子に「クリスマス、何が欲しい?」と聞かれた時、
僕はインディーズのCDをリクエストしたので、取り寄せに時間が掛かっていた。


「んーん、全然構わないよ」
僕はそう答えて、W子の顔を見た。





そんな感じに、その日は幸せに過ごしたのだけど、
だからと言ってイブに会えないという事実は変えようが無かった。


「でも、イブの事はゴメンね」
僕は改めてW子に謝った。


「んーん、気にしないで良いよ。アタシは会社の人たちと出掛けてるし」
「そうなの?」
「うん。題して「イブに諸事情あって相方と逢えない人たちの会」なの」
「あははは。なんだそりゃ」
「みんな色々あるみたい」
「そっかー」


W子がイブに気を紛らわす予定が入って一瞬安心したが、
でも、それでも僕はW子と一緒に居れない事を恨んだし
そこまで思っておきながら、家を出ることが出来ない自分にもどかしさを感じていた。





23日にW子と会うことが出来たのは偶然だった。


その日、僕とW子は予約していたクリスマスケーキを受け取りに
いつもの街で会う予定だった。


しかし、前日になってヨメさんが
「アタシも買い物があるから行こうかな」と言いだしたのだ。


「いいよ、来なくて」とはもちろん言えず、
仕方なく僕はW子にメールをした。




「ごめん、急にヨメさんが一緒に出掛けるって言いだしちゃった・・・」
「そっか。残念だなぁ」
「ホントにごめんね」
「んーん、事情はわかってるつもりだから・・・」




せめて23日には会いたい と僕は思っていたし、
W子も当然そう思っていたであろう。


でも、結局僕の事情でフイにしてしまい、
僕は悔しかった。


僕はこんな所(家)で何をやってるんだ
メールの返事を打ちながら、僕は激しくそう思った。





翌23日。


僕が起きて居間に行くとヨメさんが
「今日、寒いしちょっと風邪っぽいから行くのやめとく」
と言ってきた。


僕は「ふーん。そっか。じゃぁ一人で行ってくるよ」
と何気なく答えたが、ココロの中で小躍りをして喜んだ。


僕は換気扇の下でタバコを吸いながら、早速W子にメールをした。


「朗報! 一人で出掛けるよ!!」


しばらくすると返信が来た
「えええ? 余裕でシャワー浴びてたらそんな事に!
 でも、うれしい。急いで準備するね♪」




僕とW子は、いつものように手を繋ぎ街を歩いた。
買い物をしたり、お茶をしたり、たこ焼きを食べたり。


そしてそれはいつものように「数時間」だけの事だったけど
それでも僕は嬉しかった。


街はクリスマスムード一杯で、
僕もW子もその雰囲気を目一杯楽しんだ。




明日会えないぶん、せめて今日だけでも
お互い、そんな気持ちがあったのかもしれない。




帰りのバスの中でW子からメールが入った。
「今日は予想外だったけど、嬉しかった。ありがとう」


「うん。僕も嬉しかった。来年はもっと一緒にいようね」
と僕は返信した。




「うん。いようね♪。あ、ネコたちとも一緒に、ね(笑」
W子からの返信を読み、


僕は改めて
来年は必ず一緒に過ごそう




強く、とても強く、そう思った。