15・節目の日
□2006年12月・1□
「節目の日に会えて良かったよね」
それは、初めて僕とW子が会った時から、ピッタリ1年経った日だった。
僕とW子は、1年前と同じ喫茶店で同じ席に座り、
1年前の事を話し、楽しんでいた。
「ホント、まさかこうなるとはねぇ」と僕
「ホント、こうなっちゃうとはねぇ」とW子
「でも、僕は嬉しいよ、こうやってW子に出会えた事も、好きになれた事も」
「うん。アタシも。色々あったし、これからの方が大変だけど、嬉しい」
「これからもヨロシクね」
僕はいつものセリフをW子に言った。
僕は「これからもヨロシクね」という言葉が好きだった。
その言葉を口にするたびに、改めてW子の事を想う事が出来たし、
一歩一歩、前進して行ける気がするのだ。
もちろん、言葉に出さなくても想っていたし、前進しているのだけど
それでも言葉に出したかった。
「アタシも、まだまだ困った子だけど、ヨロシクね」
そう言ってW子は僕の顔を見た。
☆
12月というのは楽しい時期ではあるが、
僕の立場としては色々と難しい時期でもあった。
もちろんそれはクリスマスの事だ。
僕としてはクリスマスはW子と過ごしたかったけれど、
日曜日という事もあって出掛ける事も出来ず、諦めるしか無かった。
「ホント、ゴメンね・・・」
「んーん、仕方ないもんね、日曜日じゃ」
「うん・・・」
僕は落ち込みながらそう言った。
「でもさ、来年のクリスマスは一緒に過ごせるからさ」
一年後の事が今年の贖罪になるとは思わなかったけれど、
それでも、僕はW子にそう言った。
そしてそれは僕の強い希望であり、紛れもない本心だった。
来年のクリスマスは、一緒に過ごしたいと。
☆
二人でクリスマスを祝ったのはイブの数日前で、
それはまた偶然にも初めて僕がW子に「好き」と言った日だった。
特別その日を意識したワケでは無かったが、
それでも、やはり節目の日というのは嬉しかった。
それは平日だったのだけど、W子が半休を取ってくれたのだ。
ひょっとすると、意識してその日を休みにしてくれたのかもしれない。
「今日、休みを取ってくれて本当にありがとう」
ベッドの上で僕はW子にお礼を言った。
「んーん。アタシもゆっくり会いたかったし」
W子はそう言ってくれたけど、休みを取るのは大変だったと思う。
僕はココロの中でW子に感謝し、そして謝りもした。
「休みを取ってくれてありがとう。僕の方が時間を作れなくてゴメンね」と。
「そうだ、プレゼント」
既にクリスマスプレゼントは渡していたのだけど、
僕はこの日のために、もう一つ準備をしていたのだ。
僕がクリスマスカードを添えて手渡すと、W子はとても喜んでくれた。
「ホントにホントに、ほんっっとに、嬉しい♪」
その笑顔を見て「良かった、喜んでくれて」と思い、僕も嬉しくなった。
僕はW子の笑顔を見るのがとても好きなのだ。
「ぽんにあげるプレゼント、もう少し待ってね。まだ届かないの」
W子はそう言ってすまなさそうにしていた。
W子に「クリスマス、何が欲しい?」と聞かれた時、
僕はインディーズのCDをリクエストしたので、取り寄せに時間が掛かっていた。
「んーん、全然構わないよ」
僕はそう答えて、W子の顔を見た。
☆
そんな感じに、その日は幸せに過ごしたのだけど、
だからと言ってイブに会えないという事実は変えようが無かった。
「でも、イブの事はゴメンね」
僕は改めてW子に謝った。
「んーん、気にしないで良いよ。アタシは会社の人たちと出掛けてるし」
「そうなの?」
「うん。題して「イブに諸事情あって相方と逢えない人たちの会」なの」
「あははは。なんだそりゃ」
「みんな色々あるみたい」
「そっかー」
W子がイブに気を紛らわす予定が入って一瞬安心したが、
でも、それでも僕はW子と一緒に居れない事を恨んだし
そこまで思っておきながら、家を出ることが出来ない自分にもどかしさを感じていた。
☆
23日にW子と会うことが出来たのは偶然だった。
その日、僕とW子は予約していたクリスマスケーキを受け取りに
いつもの街で会う予定だった。
しかし、前日になってヨメさんが
「アタシも買い物があるから行こうかな」と言いだしたのだ。
「いいよ、来なくて」とはもちろん言えず、
仕方なく僕はW子にメールをした。
「ごめん、急にヨメさんが一緒に出掛けるって言いだしちゃった・・・」
「そっか。残念だなぁ」
「ホントにごめんね」
「んーん、事情はわかってるつもりだから・・・」
せめて23日には会いたい と僕は思っていたし、
W子も当然そう思っていたであろう。
でも、結局僕の事情でフイにしてしまい、
僕は悔しかった。
僕はこんな所(家)で何をやってるんだ
メールの返事を打ちながら、僕は激しくそう思った。
☆
翌23日。
僕が起きて居間に行くとヨメさんが
「今日、寒いしちょっと風邪っぽいから行くのやめとく」
と言ってきた。
僕は「ふーん。そっか。じゃぁ一人で行ってくるよ」
と何気なく答えたが、ココロの中で小躍りをして喜んだ。
僕は換気扇の下でタバコを吸いながら、早速W子にメールをした。
「朗報! 一人で出掛けるよ!!」
しばらくすると返信が来た
「えええ? 余裕でシャワー浴びてたらそんな事に!
でも、うれしい。急いで準備するね♪」
僕とW子は、いつものように手を繋ぎ街を歩いた。
買い物をしたり、お茶をしたり、たこ焼きを食べたり。
そしてそれはいつものように「数時間」だけの事だったけど
それでも僕は嬉しかった。
街はクリスマスムード一杯で、
僕もW子もその雰囲気を目一杯楽しんだ。
明日会えないぶん、せめて今日だけでも
お互い、そんな気持ちがあったのかもしれない。
帰りのバスの中でW子からメールが入った。
「今日は予想外だったけど、嬉しかった。ありがとう」
「うん。僕も嬉しかった。来年はもっと一緒にいようね」
と僕は返信した。
「うん。いようね♪。あ、ネコたちとも一緒に、ね(笑」
W子からの返信を読み、
僕は改めて
来年は必ず一緒に過ごそうと
強く、とても強く、そう思った。