23・狭まる心



そもそも、なんでこんな事になったのかというと、
そのキッカケは子供の事だった。


もちろん、他にも理由やら原因やらはあるのだろうけど、
目に見えてハッキリとしていた理由は子供の事だった。




□2006年12月・4□


クリスマスを1週間後くらいに控えたある休日、
僕は年賀状を印刷するため、会社に来ていた。




僕は親戚関係に「家族3人で挨拶に行く」事を極力避けていたので、
年賀状に子供の写真を使い、それで挨拶の代わりにするつもりだった。


僕はネコの写真を使う事は好きだったけど、
年賀状に子供の写真を使う事に対しては昔から毛嫌いしていた。


だけど、挨拶に行かないぶん、そこの部分は僕が折れるしかなく、
渋々と写真入り年賀状を作っていた。





印刷を終えた後、W子と逢ったのだけど、


その時彼女は
「どんな年賀状にしたの? 見たいな〜」と言ったのだけど、


僕は「子供の写真が入っているから、見せたくない・・・」と答えた。




好きで写真を使っているワケではなかったけど、
それを見てW子がイヤな気持ちになる事を避けたかった。


その真意をきちんと伝えれば良かったのだけど、
会話はそこで途切れてしまい、伝える事は出来なかった。




ひょっとしたらW子は
「ぽんは、年賀状に子供の写真を使うんだ。大事だから使うんだ」
といった感じの勘違いをしたのかもしれない。


だからその日の夜、
「アタシ、P子の事は好きになれそうにない。受け入れられない」
と僕にメールをしてきたのだろう。




それは当然の事だったし、
僕だってW子にP子の事を受け入れてもらおうとは思わなかった。


それはムシが良すぎるというものだろう。




しかし、その反面、
僕の中では「せめて離婚するまでは子供に対してはきちんと接しよう」
という思いがあったのは事実だ。


それはただの偽善かもしれないけれど、
いずれ離れてしまう子供に対する、僕なりの誠意だった。




だからW子にもそれは伝えた。


「受け入れてくれ とは思わないよ。それはムシが良すぎるもん
 だけど、僕がP子と一緒に居られる間だけはP子に構う事を許して欲しい。
 一緒に居られる間だけは、ちゃんと親をしておいてあげたいの。
 ごめん・・・・」




W子からの返信は翌朝だった。
「色々考えちゃうけどさ、待てる間は待つから。
 子供の事は私は誉めも貶しもしない。何も言わないし。
 冷たいかもしれないけど、いろいろ考え抜いて出した結論だから・・・
 でも、子供の事以外は、私も一緒に頑張るよ〜」




その話はそれで一応の収まりはついたのだけど、
それから少しお互いがギクシャクしだした事は確かだった。




□2007年1月・2□


ヨメさんに仕事の話をした翌朝、


「昨日はメールありがとう。
 ちゃんと帰ってきてくれて、ありがとう。
 アタシは今日、リハビリを兼ねてパパとママと出掛けています
 今日はあまり連絡出来ないかも・・・」


というメールがW子から届いた。




「ただいま、W子。ちゃぁ〜んと、帰ってきたよ。
 会社の話、したよ。ヨメさんの反応は鈍かったけど。
 でも、ちゃんと布石は打ったよ。
 ところでリハビリってなぁに?」


と僕はW子に返信をした。




僕は
ちゃんと伝わったかな?
少しは安心して喜んでくれたかな?
つか、リハビリってなんだろう・・・


そんな疑問を抱えていたけど、
まぁ、ご両親と一緒なら、遅くなる事も無いだろう
そう思い、夜には「ただいまメール」が届くだろうと思っていた。





しかし、
一向にメールが届く気配もなく、僕は時計の針が0時に近づくにつれ
どんどんと不安が大きくなっていった。




一体、どうしたのだろう。
ご両親と一緒に出掛けたのに、なんでこんなに遅いんだろう。
まさか事故にでも遭ったんじゃないだろうか




バカみたいな想像だとは思うけれど、
心配しすぎだとは思うけど、


僕は本当に心配だったのだ。




世の中、何が起こるか分からないのだ。


無事なんだろうか。
大丈夫なんだろうか。




僕はそんな不安をたっぷり抱えたまま、
一晩を過ごす事になった。






そして、不安と同時に、怒りも感じていた。


それは
「たった1行のメールでも良いのに、なぜ送ってこれないんだ?」
といった感じの怒りだった。




疲れて眠いなら、それでも良い。
「ただいま。疲れたから寝るね」の一行でも良かった。


電話をワン切りするだけでも良かった*1




少なくとも、無事に家に居る事が分かるのだ。


でも、その1行も1コールも無かった。




そして、ヨメさんにした、仕事の話という布石に対する
W子の反応が無い事にも不安と不満を募らせていった。




僕はその日、初めてW子にタイマーメールを送らなかった。


たぶん、送っても怒りの文章になってしまうような気がしたし、
その返信すら来なかったら、僕はもっと怒ってしまうような気がしたのだ。





W子からメールが来たのは翌朝だった。


「昨日は連絡出来なくてごめんね。
 リハビリっていうのは、仕事生活に戻すって事だったの。
 だから早起きして、出掛けて、お昼寝しないで動いて・・とか。
 単純な事なんだけど、やってみたらキツかった。
 連絡出来なくてごめんね・・・」




そっか、そうだよね。
疲れたなら仕方ないもんね。
でも、ホントに無事で良かった。
何もなくて、ホントに良かった。


僕は素直にそう思って安心したけれど、




で、「布石」の事はスルーなの?
というたった一点のみが引っかかり、僕は怒ってしまった。




他愛の無い内容の事は、返信をスルーしても構わないと思うし、
それについては僕だって文句を言ったりしない。


でも「大事な事に対して」はやはり反応が欲しかったし、
それは僕が前々から彼女に言っていた事だし、
彼女も「ちゃんと返事をするね」と言っていた事だった。




W子にとって、布石とかはどうでも良い事なんだろうか
そう考えると、どうしても納得がいなかった。




だから、メールの返信は、かなりキツイ内容になってしまった。


「じゃぁ、僕も今日はリハビリするから、メールを「あまり」出来ないかも。
 メールを打つ30秒も余裕がなかったらごめんねー」


自分自身、なんてココロが狭いんだろうと思ったけれど、
その時の僕は、本当に精神的に参っていたのだ。




W子は
「うん、わかってる。私はそれだけの事をしちゃったんだよね。
 ごめんね・・・」
と返信をしてきた。




僕はどうすれば良いか解っていた。


「んーん、ごめんね。僕の言い方も悪かったよね。
 キツイ事言ってごめん。もう、怒ったりしないよ。
 今日から仕事だよね。頑張ってね」


そうメールをすれば良かったのだ。






でも。


でも、僕はそれが出来なかった。


「わかってるって、何を? それだけの事って、どれだけの事?
 ごめんねって、何に対して?」


僕はそんなメールを送った。
送った後、読み返して自己嫌悪に陥ったけど、
それでも、やはりスルーされた事に対しては怒っていた。

*1:実際に疲れてる時はワン切りをしていた