24・3人の姿



□2007年1月・3□


僕は送ったメールを読み返し、自己嫌悪に陥っていた。




なんでこんなメール送ってるんだろう・・・
なんでもっと広い心でいる事が出来ないんだろう・・・




ダメだ、もっと大きな心で包んであげなくちゃ
僕はそう思い、なるべく心を落ち着ける事にした。





その日の夜、W子は新年会に出席していた。


まだ正月休みだった僕は
「あまり遅くならないようにね。落ち着いたらメールしてね」
とメールをし、一日を過ごしていた。






W子から返信が来たのは22時近くになってからだった。




「いま終わった〜 ちゃんと夕ご飯食べてる?


 昨日の事なんだけど・・・
 最近ね、ぽんにメールするのが怖いの。何をしてもぽんが笑ってくれない気がするの。
 眠くなりすぎてメールを送り損ねて、どうしようどうしようって、悪循環になっちゃって。
 私が同じ事をされたら、悲しいのにね・・・


 でもね、ほんとはこういう事はメールじゃなくて電話でも良いから話したいの。
 そういう普通のことできない事にひねて、こんな事してる自分もイヤ。


 アタマぐちゃぐちゃみたい。
 こんなんで、ごめんね・・・」




僕はそのメールを受け取った時、複雑な気分だった。




W子はちゃんと謝ってるんだから、僕もちゃんと包み込んであげなくちゃ
でも、確かに「笑えない事」ばかりしてるよなぁ・・・
確かに電話でも良いから話をした方が良いけど、まず先に一言あった方が嬉しいな
「そういう普通の事できない事にひねて」って、じゃぁ電話で話せば良いのに・・・(この部分についての詳細は後述)




僕は、ちゃんとW子が反省しているのだし、
そこで全て水に流そうと思った。


それが正しい事だとは思っていた。






でも、


でも、またそこで一つの事が引っ掛かってしまった。




だから、なんでまた「布石の事」をスルーしてるんだよ




たったその一点だけのせいで、
僕は水に流す事が出来なくなってしまった。




でも、僕の方から
「ねぇ、布石の事に対して、何も反応は無いの?」
と聴く事が出来なかった。




だから結局、
「そりゃぁ、笑えない事しかしてないしねー
 ま、ちゃんと言葉で伝えたいなら、明日以降、直接言うんだね(笑」
と、イヤミの籠もったメールを返信してしまった。




でも、僕は「明日以降直接言うんだね」という部分に
明日、会いたいな・・・という想いを込めていた。


「明日」というのは、W子と初めてキスをした日からちょうど一年だったのだ。


そういうのはセンチメンタルの極地だとは思ったけれど、
僕はそういう小さな節目や記念日が好きだった。


でも、それがW子に伝わったかどうかは分からなかった。






しかし、
節目とか記念日とか言う前に、僕は無性にW子に会いたかった。




なにしろ、年が明けてから、まだW子と会っていなかったのだ。
年末に会ってから、まだ一週間も経っていなかったけれど、
僕は会いたくて仕方がなかった。


当然、W子も僕に会いたいと思ってくれているバズだった。





「それと、もうひとつごめん。
 明日、お母さんのお誕生日祝いをするみたいなの。
 20時には家に帰らなくちゃ・・・」




W子からそうメールが届いたのはイヤミメールのすぐ後だった。
僕はその日に会いたかったけど、家の用事があるならば仕方なかった。




でも、
でも、また一つ引っ掛かった。






20時に家に帰るという事は、19時前には仕事をあがれるって事?
僕と会う時、そんな早い時間に上がった事、無いじゃん・・・・






もちろん、普段だったら、そんなのは「引っ掛かる事」ではなかった。




でも、立て続けに「引っ掛かる」事が起きていたため、
僕はどんなに小さな事に対してもイライラが溜まっていった。






もう、これ以上イライラしたくないんだよ。
頼むから、あまり立て続けに「引っ掛かる事」をしないでよ



僕は、
怒る→怒っちゃだめだ の繰り返しで、
かなり疲弊していたのだ。




だけど、怒りたくない。


だから、
「そっか、じゃぁ仕方ないよね。
 お母さんに「45歳おめでとう」って言っておいてね♪
 土曜日は会えるのかな? 
 土日のどっちか、母親の家に顔出しに行くから、予定が分かったら教えてね〜」


とメールを送った。




ま、これで土曜日に会うことが出来れば、
僕もいつも通りに戻れるだろう。






W子からの返信はすぐだった。


「うん、伝えとくね(笑
 あと、土曜日の事はちょっと待ってね」






ちょっと待ってねって、何を待つの?
その「理由」は何?




ついさっき、怒りたい気持ちを抑え、平静になったばかりだったのに、
また「引っ掛かる」が出てきてしまった。






・・・・ダメ、限界・・・




「待たないよ。なんで待つの? 理由は?」
僕はそう冷たくメールをした。





翌朝届いたW子からのメールは
「あのね、お母さんの返事待ちなの」
という内容だったけど、それでも「理由」は書いていなかった。




「いや、それは良いんだけど、何の返事待ちなの? その理由を聞いてるの




なんで、こう何度も聞き返さなきゃダメなんだよ・・・
僕は沈んだ気持ちでメールの返信をした。




「あのね、家の点検があって、お母さんが出掛けちゃうなら
 アタシが立ち合う事になってるの」




なんだ、そんな事か。
それじゃ仕方ないよな。じゃぁ会うのは日曜日にしようかな




僕はそう思ったけど
「そういう理由があるなら、最初に言いなよ。
 ちゃんと理由を言わないから、怒っちゃうんだからさ。」


と返信をした。




最初から
「土曜日、家の用事があるかもしれないの。
 お母さんが出掛けちゃったら私が家に居なくちゃいけないから、
 返事はちょっと待ってね」
とメールをくれれば、僕は何も怒りはしなかっただろう。


実際、理由を聞いた後は、僕はもう怒っていなかったのだ。
ただ、理由を先に説明しない事に対しては、まだ少し怒っていた。





W子から電話が掛かってきたのは夜になってからだった。




「これから帰ってお母さんの誕生日会?」
僕はなるべく明るい声でそう言った。


「うん」
受話器の向こうからは、パンプスの「カツカツ」という音が微かに聞こえた。
きっと駅に向かいながら話をしているのだろう。




「土曜日の事、ごめんね」
W子はそう謝ってきた。


「んーん。良いよ、予定があるのは仕方ないもん」
「うん」
「でもさ、何で先に理由を言わなかったの?」
「・・・ごめん」
「コトバが足りないの、なかなか治らないねぇ・・・(笑」


W子は自分に「コトバが足りない事」を自覚していたし、
「コトバが足りないの、治すね」とずっと前から言っていたのだ。


「ごめんね・・・」
「足りないと、何を伝えたいのかわからないよ?」
「うん」
「まぁ、今度から気を付けてくれれば良いけどさ(笑」
僕は笑いながらそう言った。




「あとさ・・・」
僕は笑いながら、話を続けた。




「僕、仕事の話をヨメさんにしたけど、その事ってスルーしてるの?」
本当は自分から聞きたくは無かった。
でも、一向にW子からは何も反応が無く、僕は不安になっていたのだ。


「スルーなんてしてない!」
W子は勢い良くそう答えた。




「じゃぁ何で何も言わないの?」
「だって、ちゃんとコトバで言いたかったんだもん・・・」
「そうだけどさ、それまで、僕はどうしてろっていうの?
 W子が何を考えてるかわからないまま過ごすの?」


「・・・・・」W子は無言だった。


「僕だって、会ったときにちゃんと話をしたいけど、
 メールでも何でも、一言先に言うのって必要じゃない?」


「そうだけど・・・」
「でしょ?」
「でも、電話でも良いから、声で伝えたかったんだもん」
「じゃぁ、電話すれば良かったじゃん」


実際、電話をするチャンスはあったはずだし、
僕だって電話をする時間くらい作る事は出来た。


でも、W子は僕の予想外の返事をした。








だって、P子がいたら、電話出来ないじゃんっっ!


あぁ、そうか。
そういう事だったんだ。




W子は、電話を遠慮していたんだ・・・


僕はそれに気が付いて、しばらく無言になっていた。




「まぁ、時間帯によるけどさ・・・」
僕は力無く、そう答えた。




「でしょ? だからこれだけは言いたくなかったの!
 きっと困らせちゃうから、言いたくなかったの」


W子は既に泣き声になっていた。


「困りなんてしないよ」
僕はそう言ったけど、W子は納得していなかった。





「ねぇ、ぽん」
「なあに?」


「P子に会いたい」
「え?」


「ぽんと、P子と奥さんと、3人でいる所を見てみたいの」
「え? なんで?」


僕はW子の真意がわからなかった。




「仕事の事を話してくれたのは嬉しいの。先に向けて進んでくれてる事も嬉しいの。
 でも、アタシはぽんに何もしてあげられてないもん。ただ、待っているだけなんだもん」
W子は泣きながらそう言った。




「何もしてないなんて事、無いよ。だって横に居てくれるじゃん。
 横にいてくれるから、僕は頑張れるんだもん。横に居てくれるから、嬉しいんだもん」


僕はそう言ったけど、W子は話しを続けた。




「私はP子の顔も奥さんの顔も知らないで、ただ待ってるだけなのがイヤなの。
 ちゃんと、3人の姿を見て、知って、それで待ちたいの」


「・・・・・・」僕は無言だった。


「そうしないと、私は前にも後ろにも進めない」
「そうなの?」僕は聞き返した。


「うん。3人の姿を見たい」





僕は混乱していた。
なんでW子がそう言ってきたか、まったく分からなかった。


なんで3人の姿を見たいのかも、
なんでそうしなければ前に進めないと思ったのかも、


その時はまったく分からなかった。


でも、W子がそう強く望み、
前に進みたいというW子の気持ちを信じ、




3人で居る姿を見せる事にした。




「早い方が、良い?」
僕はW子にそう聞いた。


「うん・・・」
「わかった。じゃぁ機会を作ってみる」
「ありがとう」
「詳しい事は、今度会ったときに決めよう」
「うん」




そして、W子はP子を見る事になった。


☆☆☆


でもね、ほんとはこういう事はメールじゃなくて電話でも良いから話したいの。
そういう普通のことできない事にひねて、こんな事してる自分もイヤ。

の部分について。


僕はこのメールを受け取った時、
W子は「電話をかける」という普通の事が出来ない自分に「ひねて」いるのだと思っていた。


でも、本当は
「普通に電話をかける事が出来ない状況」に「ひねて」いたのだ。




僕がそれに気が付いたのはずっと後の事だった。


それに気が付いた時、
僕は激しく落ち込み、W子の辛さを改めて思い知る事になった。


☆☆☆


やっと更新が出来ました。でも、文章としてのデキは落第点です。
読み辛かったり、意味がわからなかったらごめんなさい。
僕自身、この頃の事は記憶が混乱しているし、うまく文章に出来ないのです。