27・誕生日



□2007年1月・6□


送り損ねたメールも読みたいな。
そう思っていたら0時を周り、僕は誕生日を迎えた。





「はぁぁっぴぃばぁぁあぁ〜す でぇぇぇ〜い すてきな一年を」


W子からそうメールが届いたのは、0時ジャストだった。


W子は「お風呂に入ってくる〜」とさっきメールしてきたから、
このメールはきっとタイマーメールだろう。




ちゃんと0時に送ってきてくれた事はとても嬉しかった。


とても嬉しかったけど、
え? その一文で終わり?
と僕は思った。


そのメールには「ぽん」の一言もなかったのだ。




「これからもよろしく」とか
「楽しい一年にしようね」とか
そういった「一緒に過ごそう」的な内容が無いのはもちろん
僕の名前すら、書かれていなかったのだ。




何なんだ? このメールは
僕はそう思った。




何より「僕の名前すら書かれていなかった」事に対し、
正直、もの凄いショックを受けた。




これじゃ、
友達に送る「バースデーメール」より酷いじゃないか。




メールをくれた事は嬉しいけれど、
僕はそのメールに、W子のココロを見る事が出来なかった。




そして
あぁ、きっとW子は、もう終わらせたいんだろうな・・・
と、思った。


そう思いたくなかったけど、
そう受け取るしかないメールだった。





でも、僕はその気持ちを抑え


「はっぴぃな一年になると良いなぁ・・・
 メールありがとう〜^^
 お風呂でヌクヌクしてきた?
 出てきたら、寝る前に送り損ねたメールを送ると良いよ♪」


と返信した。


届いていないメールなら、再送信すれば良いだけだし、
眠くたって、出来るだろう。
きっと、そのメールに公演の事が書いてあるんじゃないか?


僕はそう期待して、そのメールを送った。




でも、10分経っても1時間経っても、2時間経っても
W子からの返信は無かった。


きっと、もう寝てしまったんだろう。
再送信する事もなく、寝てしまったんだろう。




僕はそう思うと、
とても悲しくなり、やるせなくなった。






W子は終わらせるつもりなんだろうか?
いや、そんな事はない



僕は夜中の3時まで、その両者の中で考えが揺れていた。




揺れて、悲しくなって、そしてイラだっていた。


その時、僕は本当にイラだっていた。
そして、そのイラだちを消そうと葛藤していた。




でも、ダメだった。
年末から続いていた、
イラだちと、それを抑えなきゃ
という気持ちの揺れ動きの精神的な疲れが


その時、ピークに達したのだ。




もう、言わないとダメだな。
僕はそう思った。




イヤミなんかではなく、ちゃんと思っている事を伝え、
そしてそれに対するW子の意見を聞き、
根本的な問題をちゃんと解決しよう。


そして、きちんと仕切直しをしよう。




そう思い、
僕は長い長いタイマーメールを送った。





「おはよう、W子。ゆっくり眠れた?
 昨日はメールありがとう。嬉しかったよ。
 でも、ショックだったよ、名前も書かれていなかった事が。
 正直、酷いと思った。
 だって、友達に送るバースデーメールよりヒドイよ・・・


 それとね、○曜日の事。明日逢えないのは仕事だから仕方ないし、
 ○曜日も遅くなっちゃうのは分かるの。
 でも、少し期待してたんだよ? いつもより10分でも20分でも早く逢えるのを。
 実際にはいつもの時間だったとしても、W子が「早く終わらせようとしたんだけど」
 って一言をウソでも良いから言って欲しかった。


 年末からさ、何かあって、それに対して僕が怒って、W子が謝って、許して。
 でも、僕はやっぱり怒りたくないから、何かあっても「怒っちゃだめだ」って
 思うようにしてたの。でも、それが収まる前に次の事が起こっちゃって。
 その繰り返しで、僕は少し疲れちゃった・・・


 でもね、それも昨日まで。
 昨日までで、僕は全部そういった事を忘れるの。
 今日からは、また新しい気持ちでW子と向き合っていくの。
 

 本当はこんな事を言いたくないけど、言わないとキライになっちゃいそうだから。
 言わないでキライになっちゃうくらいなら、言って、話し合って、僕は好きで居続けたいの。


 今日も一日、頑張ってね。
 行ってらっしゃい^^」





僕はそのメールを打ちながら、とても悲しい気持ちになった。


なんで新しい歳の最初に、
こんなメールを送らなくちゃいけないんだろう。
なんで、こんな悲しいメールを送ってるんだろう。




でも、僕が伝えたかったのは、
今はこんな感じでギクシャクしているけど、話し合って解決していこう
という事だった。




それがちゃんと伝わると良いな。


そう思いながら、僕は送信をした。





朝になるとW子からメールが届いていた。


「おはよう、ぽん。
 今朝は寒いよー。暖かい洋服を選んでね。


 メールありがとう。
 さすがに朝イチで読んで、平然と返信できるほど冷静ではないので
 あえて感想も意見も書きません。
 ○曜日、話そうね。


 さぁ、3○歳初日、がんばってね」






ちゃんと伝わったのかなぁ・・・
僕はそう心配になったけど、次に逢ったときに、ちゃんと話をしよう。


そう思い、明るく返信をした。





会社に着くと、W子から荷物が届いていた。
開けると中にはネコの置物とバースデーカードが入っていた。


プレゼントもカードも、本当に嬉しかったけど、
カードの内容だけは、僕を少しだけ悲しくさせた。


結局、カードも英文で
「素敵な一年を」と言った内容しか書いていなかったのだ。


それは僕の考えすぎだったかもしれないけれど、
それでも、少し悲しくなったのは事実だった。




一日の仕事を終え、
自分で自分のバースデーケーキを買って帰宅したのは22時頃だった。


W子はまだ仕事をしているらしかったので、
僕はメールをした。




彼女から返信があったのは22時半頃だった。


「自分ケーキ、美味しいのは買えた?
 今日はやっと終わり。
 まぁ、必要な残業じゃなかったし、心地よい疲れかな。


 おかえりなさい、ぽん。
 お誕生日おめでとう」


その時、はじめて「おめでとう」というコトバを聞いた気がしたけど、
僕が気になったのは必要な残業じゃなかった
という一文だった。




必要な残業じゃない?
僕は誕生日なのに、意味の無い残業で逢わなかったの?
なにそれ


そう思うと「おめでとう」の嬉しさも半減し、
イヤな気持ちになった。




「必要のない残業って、どんな残業だったの? うにゃぁ?」
と、 なるべくその気持ちが出ないように返信をした。




その返信は翌朝になってからだった。


「昨日はお風呂で寝て、おコタで寝ちゃってたみたい(汗
 メール、返信できなくてごめんね・・・


 あ、残業。
 日本語変だった。
 する意味のある残業だったの、昨日は」






「ばかもん。お風呂で寝てはいけません!!
 する意味のある残業って、いつもそうじゃない?(笑
 そうじゃなきゃ、22時まで仕事する意味ないよ(汗」


僕はそう返信をした。


でも、
「する意味のある残業」というコトバの中に
今日はぽんが誕生日だから、残業したのという意味が含まれてるんじゃないか
という、感じの悪い想像をしてしまった。





数日後のW子と逢う日の朝、
僕は「今日はいつものお店に20時半で良いの?」
と、メールをした。


曜日も、時間もW子が決めた事だったけど、
「ひょっとしたら少しは早く来れるんじゃないか?」と期待して
そう送ったのだ。




でも、W子からの返信は
「今日は20時半でOKです!」
というものだった。




OK?


僕がその日のその時間にしたワケじゃないよ。


その日にしたのは誰だよ。
その時間にしたのは誰だよ。


「OK」っておかしくない?


僕はそう思い、
「OKって返し方、変じゃない?」
と返信をした。




その返信は少しキツかったかもしれないけれど、
「やっぱり早くはならないのか」という落胆もあり、
そうなってしまっていた。





僕は仕事を早めに切り上げ、いつものお店に向かった。


ちょっと早く着くかな?
そう思いながらメールを送ったけど
W子からの返信は、遅刻するという内容だった。


「遅くなって、ほんとにごめんね。。。
 あと、「OK」もごめんなさい。私が言いだしたんだもんね」




結局、遅刻か。
そう思うと、やはり少しイヤミな気持ちが出てしまった。


「ごめんね。じゃなくて、ごめんなさい でしょ?
 言いだしたのは、日にちも時間もだよね。
 あ、20時半だ」






やれやれ。
ホント、今日はちゃんと色々と話をしなくちゃな。


そう思い、
カフェオレを飲みながらタバコを吸ってW子を待っていた。




□2007年1月・7□


「もう、終わりにしよう」


僕とW子の間に響いたその一言は、
いつもの喫茶店の静寂を、ほんの少しだけ切り裂いた。





僕の誕生日から何日か過ぎたその日、いつもの喫茶店でW子と会っていた。


待ち合わせ時間に少し遅れてやってきたW子は、
カフェオレを頼み、僕の横に座った。




僕もW子も、暫く黙っていたけれど、
何となくイヤな空気が流れていたのはお互いに解っていた。




なんでこんな雰囲気になってるんだろう。


その理由は分かっていた。


ちゃんと、お互いのわだかまりを取って、
仕切直しをしなくっちゃ。





僕はそう思いながら、W子の横顔を眺めた。