5・気分転換



□2007年2月・10□


離婚しよう


そう思っても、なかなかその第一歩を踏み出す事が出来なかったのは、
幾つか理由があった。




その最も大きなモノは


「W子とやり直したいから離婚する」
という僕の心境だった。





僕は、その考え方が間違っている事を分かっていた。


なぜなら、そう思って離婚しても、
それはW子にとって重荷になってしまうだけでなく


結局W子とやり直せなかった時、
「僕はW子とやり直すために離婚したのに」と
それが恨みになってしまうからだった。




僕はW子を恨みたいのではなく、愛し続けていたかった。


恨みに思わないためには
離婚とW子の事は切り離さなければならない。




しかし、切り離すという事は
ある部分においてはW子の事を諦める という事だった。




でも、もし仮にW子とやり直せる時が来るとして、
その時には、僕は独り身でなくてはならない。
これは絶対条件だった。








諦めるのに、愛し続ける


そんな矛盾を僕は抱えていた。








そして、諦める事になった場合、
それでも僕は離婚を望むんだろうか。


今まで通り、のらりくらりと生活を続ける事も出来るんじゃないか?
そうすれば厄介なもめ事もなく、生きていけるんじゃないか?




何も分からなかった。


僕は答えの出ない問題を、あてもなく考え続けていた。








それでも一日一日は過ぎていき、
僕は週末の度に「彼とデートをするW子」を想像しては
一人で勝手に苦しんでいた。





食欲は落ちる一方だった。
朝食のパンを食べては吐き気がし、
昼食はゼリー飲料やカップラーメンしかお腹に入らず、
夕食は全く食べる気がしなかった。


しかし、食べない事には生きていけないので、
テレビを見ながら意味もなく笑い、食べ物を胃の中に押し込んでいった。


そして、また翌朝になると吐き気がした。




その憔悴のピークはバレンタインの頃だった。


僕はお昼を買ってコンビニから戻り、会社のポストを開いた。
W子の手紙の件があってから、ポストを開ける事に対し、恐怖感を持っていたけれど、
会社宛の郵便物は出さなければならないので、それは仕方のない事だった。




そこには、友人から届いたチョコが含まれていた。


チョコを貰えた事は嬉しかったけど、
それでも、生きてきて最も哀しいバレンタインには変わりがなかった。






1年前、僕はW子からチョコと手作りのケーキを貰った。


今年、W子は同じように、ケーキを作ってるんだろうか?
ニコニコしながら彼にチョコを渡すのだろうか?




そう妄想し、僕はまた深く沈み込んでいった。





このままじゃダメだな






そう思ったのはバレンタインを過ぎた何日か後だった。


とにかく、気分転換が必要だった。




美味しいケーキでも食べて、
意味が無くても良いから下らないハナシをして、
笑って、少しでも気持ちを楽にしよう。






僕は、女友達と会う事にした。


「じゃぁ。その時にチョコをあげるからね♪」
友達はそう言って、会うことを快諾してくれた。




その友達に会うのは久しぶりだったし、
ケーキでも食べて、チョコを貰って、バカ話をしよう。




そう思っていたけれど、


逢った事により、物事はもっと深い迷路の中に迷い込んで行った。
















友達と会ったその週末、
僕は、結婚してから二度目の朝帰りをした。