5・気分転換
□2007年2月・10□
離婚しよう
そう思っても、なかなかその第一歩を踏み出す事が出来なかったのは、
幾つか理由があった。
その最も大きなモノは
「W子とやり直したいから離婚する」
という僕の心境だった。
☆
僕は、その考え方が間違っている事を分かっていた。
なぜなら、そう思って離婚しても、
それはW子にとって重荷になってしまうだけでなく
結局W子とやり直せなかった時、
「僕はW子とやり直すために離婚したのに」と
それが恨みになってしまうからだった。
僕はW子を恨みたいのではなく、愛し続けていたかった。
恨みに思わないためには
離婚とW子の事は切り離さなければならない。
しかし、切り離すという事は
ある部分においてはW子の事を諦める という事だった。
でも、もし仮にW子とやり直せる時が来るとして、
その時には、僕は独り身でなくてはならない。
これは絶対条件だった。
諦めるのに、愛し続ける
そんな矛盾を僕は抱えていた。
そして、諦める事になった場合、
それでも僕は離婚を望むんだろうか。
今まで通り、のらりくらりと生活を続ける事も出来るんじゃないか?
そうすれば厄介なもめ事もなく、生きていけるんじゃないか?
何も分からなかった。
僕は答えの出ない問題を、あてもなく考え続けていた。
それでも一日一日は過ぎていき、
僕は週末の度に「彼とデートをするW子」を想像しては
一人で勝手に苦しんでいた。
☆
食欲は落ちる一方だった。
朝食のパンを食べては吐き気がし、
昼食はゼリー飲料やカップラーメンしかお腹に入らず、
夕食は全く食べる気がしなかった。
しかし、食べない事には生きていけないので、
テレビを見ながら意味もなく笑い、食べ物を胃の中に押し込んでいった。
そして、また翌朝になると吐き気がした。
その憔悴のピークはバレンタインの頃だった。
僕はお昼を買ってコンビニから戻り、会社のポストを開いた。
W子の手紙の件があってから、ポストを開ける事に対し、恐怖感を持っていたけれど、
会社宛の郵便物は出さなければならないので、それは仕方のない事だった。
そこには、友人から届いたチョコが含まれていた。
チョコを貰えた事は嬉しかったけど、
それでも、生きてきて最も哀しいバレンタインには変わりがなかった。
1年前、僕はW子からチョコと手作りのケーキを貰った。
今年、W子は同じように、ケーキを作ってるんだろうか?
ニコニコしながら彼にチョコを渡すのだろうか?
そう妄想し、僕はまた深く沈み込んでいった。
☆
このままじゃダメだな
そう思ったのはバレンタインを過ぎた何日か後だった。
とにかく、気分転換が必要だった。
美味しいケーキでも食べて、
意味が無くても良いから下らないハナシをして、
笑って、少しでも気持ちを楽にしよう。
僕は、女友達と会う事にした。
「じゃぁ。その時にチョコをあげるからね♪」
友達はそう言って、会うことを快諾してくれた。
その友達に会うのは久しぶりだったし、
ケーキでも食べて、チョコを貰って、バカ話をしよう。
そう思っていたけれど、
逢った事により、物事はもっと深い迷路の中に迷い込んで行った。
友達と会ったその週末、
僕は、結婚してから二度目の朝帰りをした。