7・大きな穴



□2007年2月・11□


ケーキでも食べて、チョコを貰って、バカ話をしよう。




そう思っていたけれど、


逢った事により、物事はもっと深い迷路の中に迷い込んで行った。
















K子と会ったその週末、
僕は、結婚してから二度目の朝帰りをした。





「ぽんさん、全然連絡くれないんですもん」
お店に入ってケーキを突っついていると、K子はそう言った。


「そう? そんなに音信不通だったかなぁ(笑」
僕は苦笑いしながらそう答えた。




年明け早々に仕事の用件で会いはしたけれど、
個人的には連絡をする事も、会う事もしていなかった。




最後に仕事抜きで会ったのって、いつだったかな?
僕はアタマの中でカレンダーをひっくり返してみたけれど、
思い出す事は出来なかった。




「そうですよ、ホント、音信不通」
K子は不満そうにつぶやいた。




「ん、まぁ、ちょっと、ね。色々とさ」
僕はそう言って誤魔化したけど、どうもそれでは収まりそうに無かった。




このまま自分の中に溜め込んでも、気分転換にはならないな。
いっその事、全部ぶちまけて喋ってしまおうか・・・


僕がそんな事を考えていると
「ぽんさん、最近はどうしてたんですか?」
とK子が聞いてきた。




「最近? んー、彼女に振られた(笑」
僕がそう答えると、一瞬K子の顔が強ばったように感じた。


「へ〜そうなんですかぁ。なんでそうなったんですか?」
「話すと長いよ(笑」
「良いですよ、長くても(笑」
「そう?」
「はい。話してください」
K子はそう言って、僕の目を見た。






「去年の6月にさ、子供が産まれてね・・・」
僕がそう切り出すと、今度は確実に凍り付いた表情になった。


僕はその表情を以前にも見たことがあった。


それはK子と知り合ったばかりの頃で
僕が結婚している事を伝えた時の事だった。


「ぽんさんに子供が居るなんて、聞いてないですよっ」
「うん、だって言ってないもん」
僕は笑いながらそう答えた。





僕はW子との、事の顛末をK子に話した。


その度にK子は
「その時、ぽんさんはどう思っていたんですか?」
と聞いてきた。




僕は答えられる時もあったし、答えられない時もあった。




「それで、ぽんさんは、一体どうしたいんですか?」
一通り話し終えると、K子は核心部分を聞いてきた。


「僕は・・・彼女とやり直したい」
「ムリですよ」
それは即答だった。




「なんで?」僕は聞き返した。
「だって、ぽんさんと彼女さんは、まったく違う世界の人間なんだもん」
「違う世界?」
「そう。彼女さんは、とっても家族に愛されて育ってるんですよ?
 それに比べ、ぽんさんはどうです?」
「僕?」




僕はK子が何を言おうとしているのか、まったく分からなかった。


「ぽんさん、小さい頃の事って覚えてますか?」
「小さい頃の事?」
「そうです。どんな事でも良いですよ」
「そうだなぁ・・・」




僕は記憶に残っている幾つかの出来事をK子に話した。


「他には何か思い出せますか?」
「んー、思い出せない(笑」


僕はそう言って笑ったけど、K子は真剣な顔つきだった。




「ぽんさんには、大きな穴が空いているんです」
「穴?」僕はきょとんとした顔で聞き返した。
「そう、穴です」
「どこに空いてるの?」




僕がそう聞くと、
「ここ、ですよ」と言って、




僕の胸の辺りを人差し指で指さした。