8・姑息
□2007年2月・12□
そもそも6年前、K子と仲良くなった理由は、
彼女のちょっと特殊な能力?が原因だった。
詳しくはここで書くつもりは無いが、
その能力と話題の内容は、十分に僕の興味を惹きつけた。
だからこそ、知り合った当時、時間を忘れて話し込み、
気が付けば3時とか結局朝までハナシをしていた
という事になったのだ。
☆
「ここ、ですよ」と言って、
僕の胸の辺りを人差し指で指さした。
「ここって、心って事?」
「そうですよ。最初にぽんさんに会った時、そう言ったじゃないですか」
言われてみれば、確かにそうだったような記憶があった。
「でも、今のぽんさんは、その時と比べモノにならないくらい、
大きくて深い穴が空いているんです」
「そうなの?」
僕は少し驚きながら聞き返した。
「はい。とっても大きくなってますよ」
K子はアッサリとそう言った。
「それは彼女との事があったから?」
「違います」K子は首を振った。
「彼女さんとの事は二次的な事に過ぎないんです。
だって、ぽんさんは穴を塞ぐのに利用してただけなんですもん」
利用? 利用ってなんだ?
「利用って、そんな事ないよ」
僕はハッキリと否定した。
「じゃぁ、聞きますけど、彼女さんと付き合わなかったら、
奥さんとはどうなっていましたか?」
「・・・わかんない」
「彼女さんと付き合ったから、別れる事を考えたんですよね?」
「うん」
「という事は、彼女さんにすがったんですよ、ぽんさんは」
「・・・・・・」
僕は何も言えなかった。
それは図星だったからではなく、
K子の発言の内容があまりにショッキングだったからだ。
「結局、ぽんさんは自分の事しか考えてなかったんですよ」
K子はキッパリとそう言った。
そうなんだろうか。
確かに、対ヨメさんとして考えれば、僕は自分の事しか考えていない。
これはもうハッキリとしているし、胸を張って言い切る事が出来た。
→イバる事ではないが(笑
でもW子に対しても、僕はそうだったんだろうか。
僕はW子に対し、出来る限り誠実に向き合っていたし、
ウソを付く事も、騙す事も、隠す事もしなかった。
それはあまりにバカ正直な接し方だったとは思うし、
段々とキツくあたったりもしたけれど、
それはW子の事を大事に想うが故の事だと思っていた。
「そうなのかなぁ・・・」
僕は力無くそう答えた。
「そうですよ。思い当たるフシ、ありませんか?」
僕はK子に言われて、色々な事を思い出してみた。
☆
「あるかもしれない・・・」
僕は暫く考えてから、力無くそう言った。
僕はW子と付き合っている間、
例えば帰る時間にしても、会う時にしても、
極力ヨメさんにバレないように根回しをしていた。
それはバレた時の余波がW子に襲いかかるのを避けるためだった。
でも、そのために取った行動は
W子を傷つけるのに十分な内容だった。
例えばお茶をして帰る時、
僕はW子の前でヨメさんに「これから帰る」とメールを送った。
それはメールを送ってから実際に家に着くまでのタイムラグを考えると、
お店を出る頃に送信すると、普段と同じくらいだったからだ。
僕はそうやって「普段と変わらない」行動を取り
ヨメさんにバレないようにしていたけれど、
W子にしてみれば
「何よ、結局は家が大事なんじゃない」と思うに十分な内容だった。
僕は慎重になる余り、W子に対する気遣いを忘れていた。
それは結局の所、自己保身だったのかもしれない。
そう考えると、K子の言う
「自分の事しか考えていない」というコトバも良く理解が出来た。
僕はW子に誠心誠意向き合ってきたつもりだった。
真っ直ぐに接してきたつもりだった。
卑怯な事も、やましいこともなかった。
でも、姑息だったのだ、きっと。
僕が「バレないように」と思って取った行動の全ては
W子からしてみれば、小心者の姑息な小手先ワザだったのかもしれない。
やれやれ。
僕は自分の意外なまでの姑息さに、自己嫌悪に陥っていた。