8・姑息



□2007年2月・12□




そもそも6年前、K子と仲良くなった理由は、
彼女のちょっと特殊な能力?が原因だった。




詳しくはここで書くつもりは無いが、
その能力と話題の内容は、十分に僕の興味を惹きつけた。




だからこそ、知り合った当時、時間を忘れて話し込み、
気が付けば3時とか結局朝までハナシをしていた
という事になったのだ。





「ここ、ですよ」と言って、
僕の胸の辺りを人差し指で指さした。




「ここって、心って事?」
「そうですよ。最初にぽんさんに会った時、そう言ったじゃないですか」




言われてみれば、確かにそうだったような記憶があった。


「でも、今のぽんさんは、その時と比べモノにならないくらい、
 大きくて深い穴が空いているんです」


「そうなの?」
僕は少し驚きながら聞き返した。


「はい。とっても大きくなってますよ」
K子はアッサリとそう言った。




「それは彼女との事があったから?」
「違います」K子は首を振った。
「彼女さんとの事は二次的な事に過ぎないんです。
 だって、ぽんさんは穴を塞ぐのに利用してただけなんですもん」


利用? 利用ってなんだ?


「利用って、そんな事ないよ」
僕はハッキリと否定した。


「じゃぁ、聞きますけど、彼女さんと付き合わなかったら、
 奥さんとはどうなっていましたか?」
「・・・わかんない」
「彼女さんと付き合ったから、別れる事を考えたんですよね?」
「うん」
「という事は、彼女さんにすがったんですよ、ぽんさんは」
「・・・・・・」




僕は何も言えなかった。


それは図星だったからではなく、
K子の発言の内容があまりにショッキングだったからだ。






「結局、ぽんさんは自分の事しか考えてなかったんですよ」
K子はキッパリとそう言った。


そうなんだろうか。
確かに、対ヨメさんとして考えれば、僕は自分の事しか考えていない。
これはもうハッキリとしているし、胸を張って言い切る事が出来た。
 →イバる事ではないが(笑




でもW子に対しても、僕はそうだったんだろうか。


僕はW子に対し、出来る限り誠実に向き合っていたし、
ウソを付く事も、騙す事も、隠す事もしなかった。


それはあまりにバカ正直な接し方だったとは思うし、
段々とキツくあたったりもしたけれど、
それはW子の事を大事に想うが故の事だと思っていた。




「そうなのかなぁ・・・」
僕は力無くそう答えた。


「そうですよ。思い当たるフシ、ありませんか?」




僕はK子に言われて、色々な事を思い出してみた。





「あるかもしれない・・・」
僕は暫く考えてから、力無くそう言った。




僕はW子と付き合っている間、
例えば帰る時間にしても、会う時にしても、
極力ヨメさんにバレないように根回しをしていた。




それはバレた時の余波がW子に襲いかかるのを避けるためだった。


でも、そのために取った行動は
W子を傷つけるのに十分な内容だった。




例えばお茶をして帰る時、
僕はW子の前でヨメさんに「これから帰る」とメールを送った。


それはメールを送ってから実際に家に着くまでのタイムラグを考えると、
お店を出る頃に送信すると、普段と同じくらいだったからだ。


僕はそうやって「普段と変わらない」行動を取り
ヨメさんにバレないようにしていたけれど、


W子にしてみれば
「何よ、結局は家が大事なんじゃない」と思うに十分な内容だった。




僕は慎重になる余り、W子に対する気遣いを忘れていた。
それは結局の所、自己保身だったのかもしれない。


そう考えると、K子の言う
「自分の事しか考えていない」というコトバも良く理解が出来た。




僕はW子に誠心誠意向き合ってきたつもりだった。
真っ直ぐに接してきたつもりだった。
卑怯な事も、やましいこともなかった。




でも、姑息だったのだ、きっと。


僕が「バレないように」と思って取った行動の全ては
W子からしてみれば、小心者の姑息な小手先ワザだったのかもしれない。




やれやれ。
僕は自分の意外なまでの姑息さに、自己嫌悪に陥っていた。