11・リスクと本気



□2007年2月・15□


「それで、結局のところ、ぽんさんはどうしたいんですか?」
「どう って?」
「今後の事とか」




ケーキもとっくに食べ終わって、飲み物も無くなった頃、
K子はそう聞いてきた。


「うん。離婚、かな、色々と状況を考えると」
「そうなんですか?」
「うん」
「でも、それは彼女さんとやり直したいから?」
「いや、そうじゃない」
「ホントにぃ?」


K子は疑わしそうな目で僕を見た。
きっと、僕が「彼女との事は関係なく、離婚」なんてできっこない
と思っているのだろう。


でも、そう疑っても仕方のない事だった。


僕だって自信が無いのだ。




「たぶん、ホント(笑」
僕は少し自信なくそう答えた。




「ほら、たぶん って言った。なんでそう最初から逃げを作るんですか?」


正鵠だった。
きっと僕は最初から、諦めはしないまでもダメだった時の言い訳を考えていたのだろう。
だから「たぶん」というコトバが出るのだ。




「なんでだろうね。逃げ場を作ってるワケじゃないんだけどね」
「ぽんさん、本気で何かに取り組んだ事ってあります?」


僕は少し考えて「あまり無いかも」と答えた。




言われてみれば、
僕は何かに対して本気で必死に取り組んだ事は無かった。




中途半端、とは言わないが、
本気でやらなくても、そこそこの結果を得ることが出来たし、
僕はそれで納得をしていた。




「ぽんさんって、頭の回転早いでしょ?」
「どうだろう。首は回らないかもしれないけど(笑」


「ばか。回転が早いから、何かやろうとしても、結果が見えちゃうんじゃないですか?」
「結果が見えちゃうって言うか、フツーは考えない?」
「考えますよ。でもぽんさんの場合、最悪の結果も見えてませんか?」
「うん、見えてる」
「そこで最高の結果は考えないんですか?」
「考えるよ。でも最悪の結果も考えて、リスクを減らす、かな」
「それが逃げなんじゃないですか?」





そうなんだろうか。
逃げ、なんだろうか。




僕は確かに物事を考える時や決める時
結果として起こりうるパターンを全て考える。




最高の結果と、最悪の結果を考えて、
最悪の結果にならないよう、どうすれば良いかを考える。
リスクをどんどん減らして、トラブルにならないようにしていった。


その結果、最高にはならなかったとしても、それで良かった。




でも、
それは「妥協」だったのだろう。
きっと、諦めていたのだ、色々な事を。




「そういうリスクを減らすのって、結局は自分自身のためじゃないですか?」
K子はそう言って僕の目を見た。




「まぁそうだと思うよ。トラブったやヤだもん」
僕は笑いながらそう答えた。




「でも、それが相手を傷つけているって事、分かってます?」


「え?」僕は驚いた。




「ぽんさんの何気ないそういった行動が、相手を傷つけてるんですよ?」
「そうなの?」




「そうですよ。きっと彼女さんも、かなり傷ついたんじゃないんですかねぇ」
「・・・・・・」




僕は答えられなかった。


僕が「良かれ」と思ってしていた事で
W子を傷つけてしまっていたのだろうか?




僕が余計なトラブルを引き起こさないためにとった行動で
W子を傷つけてしまっていたのだろうか?




「結局、ぽんさんは自分自身が一番大事なんですよ」
K子はハッキリとそう言った。