20・執着



□2007年2月・24□


「彼女さん、ものすごくご両親に愛されて育ってますね。
 何か思い当たる事はありませんか?」


「ある。彼女の家に行った時にね、リビングに家族の写真が飾ってあった。
 4人で写ってるヤツや各々のヤツとか」
僕はその写真を思い出しながらそう答えた。


「へ〜」K子は感心したようにそう言った。


「ビックリしたよ。家族の写真が飾ってあるのなんて見たこともなかった。
 ドラマ以外でもあるんだなぁ って思ったよ(笑」


「ぽんさんの家ではどうでした?」
「ははは。あるわけ無いじゃん。アルバムにだって大した写真が残ってないのに」
「その時点で、育ってきた環境が全く違うと思いませんか?」
「ん、まぁそうだろうけどさ」


「ねぇぽんさん」K子は僕の方に向き直った。
「ん?」


「ぽんさんは"愛情"という事に関して、まったくダメダメの未熟者なんです。
 それはさっきも言ったように、愛情を受けてこなかったから受け取るアンテナが無いからなんです。
 でも、彼女さんは愛情をたっぷり受け取って育ってきてるんです。
 ぽんさんなんかより、よっぽど成熟してるんですよ?」


僕は返す言葉もなかった。
というより、何を言えば良いのかも分からなかった。




「"愛情"に対して、こんなに感性が異なるのに、今更やり直す事なんて出来るワケないじゃないですか」
K子はキッパリとそう言った。


「でも、僕は彼女を今でも愛してるし、彼女も愛してくれてたよ?」
「それはぽんさんの思い込みです」K子はそう斬り捨てた。


「そうなのかなぁ・・・・」
「彼女さんも、確かにぽんさんの事を愛していたかもしれないですけど、
 それはちょっとした寄り道みたいなものだったんですよ。
 興味本位の部分もあったかもしれないですし。それが本道に戻っただけです」


「本道?」


「彼女さん本来の"愛情"に対する本道です。
 それだけ家族の絆が強い女性が、自分のためにぽんさんと娘さんを引き離す事なんて出来るわけないでしょ?」


「・・・・・」
僕は何も言えなかった。


「だから彼女さんは"娘さんを不幸にさせたら許さない"って言ったんだと思いますよ」
 彼女さんは、自分と娘さんをシンクロさせてみたんじゃないですか?」





K子の言う事は正しかった。
正しかったけれど、僕はそれを受け入れる事が出来なかった。




僕はW子に甘え、キツい事を言い、追いつめた。
それでもW子は耐えてくれていたけれど、僕は自己保身でワガママを言い、W子に対する気遣いも出来なかった。
W子と僕は「愛情」に対するスタンスがまったく異なり、
僕は僕自身とW子の事しか考えていなかったけれど、W子は自分と娘の立場をシンクロさせた。




そういった色々な事が緻密に絡み合った結果、W子は別れる事を決めたのだろう。
そして、新しい彼の存在もそこに加わったのかもしれない。




それでも僕は諦める事が出来なかった。




「それは執着ですよ、ぽんさん」
K子はそう言った。




そうなのかもしれない。
W子の事をまだ愛しているのと同時に、
W子が去った事を受け入れる事が出来なかった。


そして
「最愛のW子」を失いたくなかったのか、
「最愛の」W子を失いたくなかったのか、
そのどちらなのかも分からなかった。








「ぽんさんが何かを手に入れたければ、何かを捨てなくちゃだめなんですよ?
 その勇気がありますか?」


K子は最後にそう言った。